【イタリア語ってどんな言語?】発音・文法・語彙の特徴から「入り口は広く、出口は狭い」言語に迫る
紺碧のアドリア海、ピッツァ・マルゲリータ、情熱のカルチョ(サッカー)、フェラーリで陽光の下を駆け抜ける・・・。多くの華やかなイメージが、私たちの憧れをかき立ててくれます。
そんな国で話されているのがイタリア語です。ヨーロッパの偉大な言語遺産であるラテン語の姿を最も色濃く残すその言語。そんなイタリア語にはどんな特徴があるのでしょうか。青空にのびのびと響くようなイタリア語の世界を軽やかに旅してみましょう。
※この記事は『(旧)やるせな語学』(2019年3月)に投稿されたものを、加筆修正したものです。
イタリア語の発音
同じロマンス語系統(ラテン語由来の言語)のフランス語と比べると、「イタリア語の発音は簡単」というのはよく耳にします。そんなイタリア語の発音について最初は見ていきましょう。
発音のここが簡単
- a, i, u, e, oの5つの母音が基本
- 単語の多くは母音で終わる
イタリア語の発音は簡単という根拠は主にこの2点であることが多いようです。
何より、イタリア語の母音は日本語と同じ、A, I, U, E, Oです。単語は割と見たまま、ローマ字風に発音するものがほとんどです。
英語やフランス語などと比べても、イタリア語の発音は、特に日本人にとってはとても親近感を覚えるものです。
英語の発音の難しさは例えば、thirdなんて単語に凝縮されています。最初のth, irという部分の母音、語末にdで終わるというところが英語の難しさです。カタカナの「サード」とはおよそ実際の発音はかけ離れています。
イタリア語にはそのような意味で「日本人にとって発音が難しい」という音はそれほどありません。rの巻き舌に苦労する人もいるというぐらいでしょうか。あとは割とどんな音もカタカナで一応は近い音を表記できます。
そして、イタリア語の単語は多くが母音で終わります。これも日本語と共通したイタリア語の特徴です。
これらのイタリア語の発音について、ちょっとしたエピソードがあります。私がドイツにいたとき、何人かのイタリア人と知り合いになりました。面白いことに、彼らが話すドイツ語や英語は、どことなく日本人が話すドイツ語・英語と似ているのです。フランス人が話すドイツ語なんて私にとっては、めちゃくちゃ聞き取りにくいものでしたが、イタリア人のドイツ語や英語は、とても聞き取りやすい。何というか、日本人なまりの外国語に似ているのです。妙な親近感を覚えて仲良くなったということがありました。
発音のここが難しい!
- アクセントは覚えないといけない
- イタリア語「らしさ」を出すのは案外難しい
日本人にとって割と親しみのもてるイタリア語の発音ですが、難しい点ももちろんあります。
まず、イタリア語では単語のアクセントは覚えないといけません。アクセントにはもちろん一定の規則はありますが、最初はそれも含めて単語のアクセントを覚える必要があります。
動詞の活用形にしても、それぞれアクセントを覚えないと正しく発音できないです。
また、発音の「簡単さ」は裏を返すと落とし穴にもなります。
確かに、イタリア語の母音はa, i, u, e, oを基調としています。日本語と同じように見えますが、実際には言語が違うと母音の性格は違うものです。
日本語の「ア」とイタリア語のAは同じように聞こえても実際にはイタリア語の方が口を大きく開けてもっと明るい音で発音されます。「ウ」とイタリア語のUなんて実は大分違います。
また、各母音で、アクセントがあるときとないとき、長母音の時と短母音のときで音色が違ってきます。
発音が一見簡単であると、その言語の「本当の音色」を発する難しさに意識がいかなかったりします。ここは注意が必要です。
日本語と共通点があるからといって、ずっとカタカナ読みばかりしていると、なかなか「イタリア語っぽく」聞こえないのは陥りがちな落とし穴です。
イタリア語の文法
発音のハードルは低い一方で、イタリア語の文法学習は結構骨が折れるものです。
言語を習い始めて最初はわくわく感もあって教材も進んでいきます。発音もそれほど挫折することなく終えたところで、イタリア語文法の本格的な学習が始まります。
そこで学習者は、名詞の性数変化や果てしない動詞の活用に直面するわけです。
イタリア語文法で躓きがちなところは以下です。
- 名詞・形容詞には性数変化がある
- 動詞の活用をとにかく覚える
- 英語にはない小辞(代名詞)の用法
- 条件法・接続法
イタリア語の名詞・形容詞には性数の変化があります。性は男性と女性の2つで、それぞれが違う冠詞、形容詞を伴います。
名詞の複数形は英語のように-sをつけることはせず、語末の母音を変化させて表します。形容詞も名詞と同じように変化します。たとえば、italiano(イタリア人)という名詞は次のように変化します。
italiano イタリア人男性・単数
italiani イタリア人男性・複数
italiana イタリア人女性・単数
italiane イタリア人女性・複数
名詞の変化も最初は大変です。しかし、何より大変なのは動詞の活用を覚えることです。イタリア語の学習の多くを占めるのがこの動詞の活用の暗記だともいえます。
数多くある時制にはそれぞれ活用があり、さらに条件法・接続法といった違う世界を表す言い方もそれぞれの時制の活用を覚えないといけません。
そして、現在時制の活用を乗り越え、半過去や近接過去などのよく使う時制にそれなりに親しんだ頃に小辞(代名詞)が導入されます。
こういった代名詞や部分冠詞、代名動詞などは英語にはない事項なので、それなりに定着するまでには時間がかかると思います。イタリア語文法の難しいところです。
そして、どの文法書もだいたい最後の方で条件法・接続法といった事項を導入します。これらはそれぞれに活用形をまた覚えないといけなません。「法」が変わるということは、話し手が世界を見ている見方が変わるようなものです。そのため、この「法」を文法で扱うときは、活用はもちろんですが、なによりその用法を理解するのに苦労するものです。
接続法が導入されたところでヨーロッパの言語はまた一段階深みをもったものとして学習者の前に立ちはだかるというわけです。
初級の段階ではあまりすべてを理解しようとしすぎず、中級に入って文章を読んだりしながらじっくり消化していくという視点も必要だと思います。
イタリア語の語彙
イタリア語の語彙学習は文法よりは取り組みやすい分野だと思います。
語彙学習のここが簡単!
- 英語と似ている語も多い
- 複数形は規則的につくる
イタリア語では、英語からの類推で意味が覚えやすい語は多いです。フランス語ほどではありませんが、それでも多い方ではあると思います。
たとえば次の単語。
differenza 違い
dizionario 辞書
opinione 意見
こういった単語は、英語が分かれば、始めて見たとしても意味が分かると思います。
もちろん、こんな単語ばかりではありませんが、それでも世界の言語の中では英語と語彙の親和性はかなり高い方です。
また、名詞・形容詞の複数形もほとんどは規則通り作られます。一単語一単語複数形を覚える必要がある単語はあまりありません。
語彙学習のここが難しい!
- 名詞の性を覚えないといけない
- 不規則動詞は活用も覚えないといけない
- アクセントは覚える必要がある
- 名詞には様々な語尾が付く
性・活用・アクセント
イタリア語では名詞を覚えるときは「性」もセットで覚えないといけません。これを覚えていないと、作文や会話でその名詞を使うことはできないと思ってください。
不規則動詞も初級段階ではよく出てきます。出てくる度に現在時制の活用を覚えてしまう方があとあと役立ちます。これも避けては通れません。
また、イタリア語では単語のアクセントはそれぞれ覚えないといけません。これは英単語を覚えるときと同じだと思ってください。
もちろん、アクセントには一定の決まりはあります。しかし、覚えるしかないという場合がほとんどです。動詞の場合は各活用形のアクセントも覚えておかないと、スピーキングでは苦労します。
変意名詞
イタリア語の名詞には様々な語尾がつきます。これによって意味を微妙に変化させることができます。こうしてできた名詞を変意名詞と言います。
これは、英語やフランス語に(あまり)見られないイタリア語ならではの特徴です。
たとえば、「増大」を表す語尾は-one(男性形)です。名詞にこの語尾がつくと、その表すものがちょっと変わります。
gatto 猫
→gattone 大きな猫
libro 本
→librone 大きな本
これ以外にも、様々な種類の語尾があります。たとえば、-uccioなんて語尾は「親愛」といったニュアンスを添えます。-accioは「軽蔑」感を付け加えたりします。
libro 本
→libruccio 愛する本
libraccio くだらない本
こういった語尾は数も多く、また性によって変化します。意味も語尾によって微妙に変化するので、正直かなり厄介なところです。イタリア語の語彙学習で最も厄介な特徴といってもいいかもしれません。
また、接頭辞が付いた結果、意味が完全に変わってしまった名詞もあります。
aquila 鷲
→aquilone 凧
こういった語尾は、よく使うものや慣用的なものは語尾が付いた形で辞書に載っています。しかし、語尾が付いた形では辞書に載っていない単語も多いです。
多読をしていて名詞を辞書で調べるときは、語幹を調べて語尾のニュアンスを参照して・・・みたいな作業が最初は必要になります。
こういた接尾辞は実は英語やフランス語、ドイツ語などにもあることはあります。しかし、他の言語に比べても、イタリア語はそれらを使う頻度が非常に高いです。
また、こういった接頭辞は名詞だけでなく、形容詞や副詞にもついて意味を変化させます。名詞ほど頻度は高くないですが、こちらも最初はかなり面倒に感じると思います。
他の言語との関係
英語
英語とイタリア語の関係は語彙のところでも触れましたが、結構近いものがあります。
イタリア語は、フランス語やスペイン語と同じく、ラテン語から派生した言語です。そして、英語は(イタリア語からしたら兄弟にあたる)フランス語から多大な影響を受けました。
そのため、英語が分かると意味が分かってしまうイタリア語は結構多いのです。
一方で、文法に関しては英語と違うと感じる事項の方が多いと思います。もちろん、同じヨーロッパの言語ですので親和性はあるのですが、それでも英語の感覚では腑に落ちないイタリア語語の文法事項は多いでしょう。
ラテン語
イタリア語は古代ローマがまさに存在した場所です。そういうわけかは分かりませんが、イタリア語はラテン語の姿を最もとどめている現代語と言えます。発音も語彙もかなりラテン語の香りをしっかり保っています。
イタリア語は青空に響き渡るような開放的な音をもつ一方で、ラテン語の遺産をダイレクトに味わえる言語でもあります。
英語やドイツ語などのゲルマン語話者がなんとなく「イタリアなるもの」に憧れをもつのはこういった事情もあるのかもしれません。
歴史を見ても、ゲーテの『イタリア紀行』やアンデルセンの『即興詩人』など、「イタリア」への憧憬は、芸術家を突き動かす原動力になることもしばしばです。
現代イタリア語はラテン語にあった名詞・形容詞の格変化はなくなってしまいました。一方で動詞の活用はラテン語に近い姿を保っているものも多いです。(何より規則動詞の語尾はラテン語と似ている部分も多いです。)
ラテン語とフランス語・イタリア語・スペイン語の語彙は以下で比較します。
フランス語
フランス語は歴史の中で「音」に関しては随分ラテン語から変化しました。
その結果、聞いた感じではフランス語はイタリア語やラテン語とは随分違う言語です。
スペルも音に影響されてフランス語はラテン語の姿からは変わってしまったものが多いです。
しかし、文法に関しては、フランス語とイタリア語はかなり共通点が多いです。見た目が似ているスペイン語よりも多いぐらいです。
そのため、フランス語かイタリア語のどちらかが分かるなら、もう一方の文法を学習するのはかなり楽になります。代名詞の用法や時制と法など、この二つの言語には共通点が非常に多いです。
フランス語が分かる人にとってのイタリア語の文法学習は、フランス語のこれを、イタリア語ではこういう、ということを置き換えていく作業に近いです。(逆もまた然り。)
そのため、2つの言語でも割と一気に学習することができます。
スペイン語
イタリア語と「音」や「見た目」の上で一番近い現代語はスペイン語ではないでしょうか。
文法はフランス語に近いイタリア語ですが、単語の見た目や音は結構スペイン語との共通点が多いです。
私はイタリア語を学習し始めて最初の頃、外国人観光客の多い場所でバイトしていましたが、スペイン語かイタリア語かはよく耳をこらさないと分からないなんてこともありました。
ラテン語由来の言語の語彙をいくつか比べてみましょう。
ラテン語 forma (形)
- 仏 forme [フォルム]
- 伊 forma [フォルマ]
- 西 forma [フォルマ]
ラテン語laudare(賞賛する)
- 仏 louer [ルエ]
- 伊 lodare [ロダーレ]
- 西 loar [ロアール]
ラテン語 camisia(シャツ)
- 仏 chemise [シュミーズ]
- 伊 camicia [カミーチア]
- 西 camisa [カミーサ]
こうしてみると、現代語の単語がラテン語から派生しているのがよく分かります。[ ]で示した「音」に注目すると、イタリア語とスペイン語は近いですが、フランス語は随分違うものもありますね。
まとめ
イタリア語は「入り口は広く、出口が狭い言語」なんて言われることがあります。
日本人にとって発音はしやすく、なんとなく「イタリア」への憧れも手伝い最初はスムーズに学習が進んでいきます。
そして、文法を本格的に学び始めたところで、出てくる動詞の活用、活用、そして活用・・・。このへんで挫折してしまう人も多いことでしょう。さらには接続法の用法など、なかなか簡単には理解できないディープな世界もあります。
イタリア語を十分身につけるまでの道は決して平坦ではないということに学習者はすぐに気づくことになります。
言語学習を途中で投げ出さないためには、ある程度その言語の全体像が見えておくことが必要です。
それがあると、「あっ、ここは難しいところなんだな」と学びながら思うことが出来ます。
難しいところは最初に全部理解してしまおうとせずに、じっくり時間をかけて身につけていくことも必要です。長い目で見ると、言語はそのように考える方が身につくことも多いです。
文法というものは、用法が難しくても何度か文章中で出会うととそれなりに腑に落ちてくるものです。英語の三単現の-sや不規則の過去形など最初は混乱したでしょうが、学習が進むと見慣れたものになったと思います。
イタリア語の文法も複雑ですが、挫折しなかったらその先に「イタリア語のより深い世界」が待っています。
そこを旅することをいつだって夢見て、学習を続けていきたいところです。