【ドイツ語多読(初級編)】ドイツ語で書かれた名作を読みましょう
ドイツ語の本を読んでみたい! でも何から読んだらいいの? そう思ったあなたに、おすすめの洋書を紹介します。定番のものから、あまり知られていない本までいろいろです。楽しいものからドイツ人らしくシリアスな話まで、すべてドイツを知るには欠かせません。
※この記事は「(旧)やるせな語学」(2019年1月)に投稿されたものを、加筆修正したものです。
ドイツ語書を読むにあたって
今回セレクトした本は比較的平易なドイツ語で書かれたものです。
それでも全文ドイツ語の本など読んだことがないという人は、読むのも一筋縄ではいかないでしょう。学習し始めてすぐに洋書に手を出すのは無謀です…。
と言うわけで、今回の記事は、最低でも以下レベルの方を対象しています。
・初級文法は身についた
・2000語ほどの基本単語は覚えた
レベルとしては最低でもCEFRのA2以上です。
本来はB1以上でないと洋書なんて手も足も出ないものです。ただ、第二外国語の場合は、知らない単語が多くても、無理矢理読んでいく中で身につくことも多いです。時間をかけてじっくり読んでいきましょう。
もちろん、最初は読むのにかなり時間がかかるでしょう。2ページで1時間ぐらいかかることもあるかもしれません。暗号解読みたいなものです。
まあ、とにかくそれでも、続けると確実に上達します。
初心者がドイツ語の本を読む上での基本的な心構えを以下に。
- 翻訳を用意
- 分からない単語は調べる
- 調べた単語は覚える
- 2回以上読む
これらの事柄を頭に置いて、少しずつドイツ語を読んでいきましょう。
多読においてもっともネックになるのが語彙力です。特に第2外国語の多読学習は、出てきた単語を覚えてしまうのは鉄則です。
この作業は、学習のどこかの段階で、必ず経験しないといけません。できたら、それ以外にも単語集やその他の教材を使って、ボキャビルをし続けることが理想です。
多読に当たっては、とにかく語彙を増やすという作業を止めないようにしてください。そうでないといつまでたっても暗号解読のままです。
初心者におすすめの本
それでは、以下ではおすすめの多読教材を紹介します。ストーリーにはあえて触れません。あらすじなどが気になる方は、Amazonのページなどでご確認ください。
『モモ』
Die ganze Welt ist eine große Geschichte, und wir spielen darin mit.
(世界はすべて、ひとつの大きな物語で、わたしたちはその中で一緒に役を演じるんだ。)-Michael Ende, Momo
ドイツの児童文学作家と言えば、まず思い浮かぶのが、ミヒャエル・エンデではないでしょうか。最も有名な作品の一つが、この『モモ』です。
エンデの作品は、ドイツ語を始めて読む段階においてはとてもおすすめです。
作品自体が有名で、書かれているドイツ語もとっても平易です。『モモ』ははじめて手を出すには長い作品ですが、これを読み終えたらかなりの達成感が得られると思います。
真剣に学習しようとしたら、最初の方は、1ページに何度も辞書を引くことになるでしょう。それでも出てきた単語を覚えつつ、先に進むと、その回数も随分減ってきます。同じ単語が繰り返し使われるので、出てきた単語も身に付きやすいです。
この本のありがたいところは、印刷されている文字が大きく、挿絵もあって読みやすいところです。ペーパーバックでも英語圏のハードカバー並みのクオリティーです。さすがドイツの本!
翻訳は岩波少年文庫にあります。
『飛ぶ教室』
Wie kann ein Erwachsener seine Jugend nur so vollkommen vergessen, dass er eines Tages überhaupt nicht mehr weiß, wie traurig und unglücklich Kinder bisweilen sein können.
(大人というものは、子どもの頃をなんとまあ、すっかり忘れてしまうものだ。子どもというものが、どれほど悲しんだり不幸になったりするかなんて、ある日分からなくなってしまうんだ。)Erich Kästner, Das Fliegende Klassenzimmer
エンデと並んでこちらも有名、エーリッヒ・ケストナーの代表作『飛ぶ教室』です。
エンデの作品がちょっと教訓めいていて苦手という人は、こちらをぜひ読んでみてください。
エンデとケストナーはドイツの児童文学作家としては日本で最も有名な2人ですが、作品の性格は随分違います。エンデがドイツ人の生真面目さ、時に深刻なまでに目の前の問題と向き合う気質を表しているとしたら、ケストナーは、ビールを持って陽気に話す闊達さのようなものを表していると私は思っています。
まあ、すべての作品がそういうわけではないのですが、私のこの第一印象は昔から変わりません。『飛ぶ教室』は、古い本ですが、今読んでも楽しく、おかしく、(大人になって読むと)どこかさみしい気分になるような本です。トリーアのイラストも外せません。
実はドイツ文学にはこういった明るい作品ってあまりないのです。だからケストナーの作品は貴重な存在。私も大好きです。
ただしケストナーの(特に児童書の)ドイツ語は、けっこう言葉遊びなども多く、難しいです。そこはご注意ください。初級で習った文法規則に当てはまらないような文も結構あります。
多読では、よく分からないところは思い切って読み飛ばすということも必要であることは覚えておいて下さい。
翻訳はドイツ語作品の翻訳者としては知っておきたい池内紀先生のものが読みやすいです。
変に甘ったれたところのないドライなスタイルの翻訳なら光文社新訳文庫のバージョンがいいです。
『フリードリッヒ』
Damals war es die Juden.
(あのときは、それがユダヤ人だった。)Hans Peter Richter, Damals war es Friedrich
『飛ぶ教室』とは打って変わって、かなり深刻な作品です。
『あの頃はフリードリッヒがいた』というタイトルですが、原題は実は意味がちょっと違います。
原題では、Damals war es Friedlichです。直訳すると「あの頃は、それがフリードリッヒだった」という意味です。
「それ」とは何か。本書を読んで、確かめてみてください。
この話は、ナチスによるユダヤ人迫害を描いた作品です。シリアスで、救いのない悲しい話ですが、これもドイツ。
児童書ではあるので、ドイツ語自体はとても平易で読みやすいです。ナチスに関する用語などはあまりなじみがないかもしれませんが、繰り返し出てくるので慣れます。辞書で分からないときはネットで検索してみたらいいでしょう。
深刻な作品ですが、ドイツという国が経験したことを知るにはこういう本も避ける訳にはいかないと思います。
翻訳は岩波少年文庫から。
『見えない雲』
原題はDie Wolke(単に「雲」の意)で、日本語版は『見えない雲』というタイトルがつけられています。
映画化もされました。コミック版も出ています。
これも「フリードリッヒ」同様、かなり深刻な話ですが、ドイツという国の姿がつまっています。
これは、原発事故を描いた作品です。
ドイツという国は、環境先進国とも言われるように、エネルギーに関して世界のロールモデルという地位を築いています。あまりドイツに関して知らない人でも、「脱原発の国」ぐらいのイメージを持っている方は多いと思います。
そんな本ですが、この物語のドイツ語も平易です。あまり難しい専門用語もないので、最初の方を読めればわりとすらすら読んでいけると思います。
この本の中で、日本語から入ってきたドイツ語が出てくる文があります。
主人公のセリフで、Wir sind Hibakusha.(私たちはヒバクシャなんだ。)というものです。
私は最初にこれを読んで、なんだかドキッとするような戦慄を覚えました。日本からこの言葉はドイツ語にはいって来たのだと思うと、日本とドイツ語が経験してきたことに思いをはせずにはいられません。
翻訳は小学館文庫から出ています。
『ゾマーさん』
最後に紹介するのは、オーストリアの作家パトリック・ズュースキントの作品です。
タイトルは『ゾマーさんのこと』となっています。原題の直訳は『ゾマーさんの物語』とでもいったところでしょうか。
この作品は、主人公が大人の視点から、子どもの頃を振り返るという体裁になっています。その中で、ときどき出てくる人物が「ゾマーさん」という謎の(?)男性。ゾマーさんをゆるやかにめぐる過去のなつかし話が、ときにおかしく、ときに感傷的に語られます。
オーストリアの伝統というか、ストーリー自体がさわやかでおもしろく、私も大好きな本です。サンペのカラーイラストがまたなんとも言えません。
作者のズュースキントは『香水』という文学作品で世界的に名を馳せることになった作家です。この『ゾマーさんのこと』は児童書のような形をとっていて、ドイツ語も平易で読みやすいです。
この本を読んで、ちょっと寂しい思いになってしまったら、おとなになったということかもしれません。
池内紀先生の翻訳が素晴らしいです。
まとめ
第二外国語を身につけようと思い立つ人は、英語に比べても遙かに少ないです。その中で、多読に取り組むという人は、さらに少数派になります。ドイツ語で本を読んだことがあるという人なんて、日本人のうち、何パーセントでしょう? きっと0.0○○%ぐらいだと思います。
それ故、情報も少ないですし、なにから選んだらいいか分からない人も多いと思います。
ドイツ語の洋書が置いてある書店も大都市の大型書店ぐらいです。Amazonで一か八か頼んでみるぐらいしか普通は手がありません。
それでも、勇気を持ってその道に踏み込もうとする方は、臆せず、まずは本を手に取ってみてください。ドイツ語の本は、装丁も活字もきれいです。読みやすさという点では日本と並んで世界トップクラスと言えるでしょう。手にするだけで、なんだか学習欲がわいてくるかもしれません。
読めなくても、挫折しても、本棚に飾っておきましょう。いつか思い立つときがあるかもしれません。
語学は思い立ったら、けっこう上達は早いものですから。