【音声付き♪ ドイツ語発音・完全ガイド!】正しい発音の規則とポイント これで必ず発音できる!
ドイツ語の「音」は、非常にクリアな母音にいくつかの子音が寄り集まるようにして生み出されます。発音規則ははっきりしていて、ほとんどすべての単語はその規則通り発音されます。初めて見た単語でも発音できますし、初めて聞いても単語を綴れます。そんなドイツ語の音と文字の関係、そして発音の規則を身につけましょう。この記事は少し長いですが、ドイツ語の発音の仕組みが理解できるように推敲を重ねて書きました。
初級向けに書いていますが、初学者の人こそドイツ語の神髄に真っ先に触れてほしいという思いから、「ウムラウト」や「eの長母音・短母音の違い」の説明はやや詳しめにしています。通常の語学書では紙面の都合で割愛されているような内容でも、【補足】という欄で詳しく説明しています。何より、ドイツ語は通底する考えを理解すると一気に学習がはかどるからです。難しそうな【補足】や【発展】の項目は最初は隠していますので、まずは全体像をつかむため、読み飛ばしてもらってもかまいません。それでもすべてじっくり読むと理解できるように気を配りました。
ドイツ語習得の鍵は、文法でも発音でも、とにかく「ドイツ語の考え方」を理解することです。
例えば、よくある文字の読み方の説明に、『Öの文字は「オ」の口で「エ」と発音する』というのがあります。これはこれで誤りとは言えないのですが、それだけ説明しても私たちにはよく意味がわかりません。これは日本語にないドイツ語の音を、日本語の物差しで、無理矢理日本語の枠組みを当てはめて考えているからです。実際、日本語話者がドイツ語の Ö を発音すると、かなりの上級者でさえ、なにやら「カタカナ」っぽい響きの発音になってしまいます。ドイツ語の発音はやはり、一つずつ石を積み上げるように、ドイツ語の発音の考え方に則って組み立てていくしかありません。
発音の習得で大切なのは、いきなり言語学・音声学レベルでの深い話をしてもいけませんし、かといってすべてカタカナ読みで済ませていてもいけません。この記事ではできるだけ両者のバランスをとりながら、初学者がそこまで深く考える必要がない部分はできるだけ割り切った表現をしています。
理解しながらじっくり読むことで、ほとんどすべてのドイツ語を発音する知識を得られるはずです。そしてその根底にある「ドイツ語の考え方」も身についていていることでしょう。
短母音の発音
ドイツ語の短母音で、基本となるのは、I, E, A, O, Uの5つの母音です。ドイツ語の発音では、日本語より口の中の空間を上下にも前後にもたっぷり使うことを意識してください。
イラスト中のアルファベットの位置は、その音が鳴っている大体の位置を示しています。日本語と違って、口を大きく動かし、その結果、音を出す位置が口の中で変化しているのを感じましょう。
I [i]
日本語の「イ」より口を横に引っ張る感じで出しましょう。はっきりした音です。
E [ɛ]
短母音のEは割と日本語の「エ」に近いのですが、日本語より口を縦に大きく開けて発音することを意識しましょう。※この文字は、アクセントの有無や音の長短によって発音が結構変わるのにも注意。(後述)
A [a]
日本語の「ア」より、口の中の天上を上げる感じで。明るくはっきりしたAです。
O [ɔ]
口を突き出して発音します。「ア」の口の空間をつぶさない感じで口を突き出す感じです。タマゴを口に含んだような感じで発音しましょう。
U [ʊ]
口をさらに突き出します。日本語の「ウ」とはずいぶん違う音になります。音が鳴る位置は口の奥の方です。
※OとUの文字は、唇を丸めて、口を突き出すように発音するということをとにかく意識してみてください。次に出てくる長母音でもÖやÜのウムラウトでも、とにかくこの口と唇の形が崩れることはありません。
ここで示した5つの母音がすべてのドイツ語の発音の基本です。日本語と同じ「アイウエオ」だからカンタン!、と油断せずに、しっかり「ドイツ語の音」で発音することを意識しましょう。IEAOUの順番で示したのは、口の中で、発音する位置が前から後ろに移動しているのを理解してもらいたいからです。この「前後」の感じは今後の発音を考えていく上で非常に重要です。これができていないと、これから述べる発音は、すべてできないと考えてください。
強勢のある短母音に注意して、実際にドイツ語を読んでみましょう。
bitten お願いする
[bitən]
Bett ベッド
[bɛt]
fallen 落ちる
[fallən]
offen 開いた
[ɔf(ə)n]
Luft 空気
[lʊft]
この例でわかるように、ドイツ語では後ろに子音が2つ以上来ると、前の母音を短母音として発音します。
bitten, Bett, fallen, offen, Luft
ドイツ語では、基本的に単語の第1音節に強い強勢があります。それらの母音は「強く、はっきり、クリアに」です。一方で、bitten, fallen, offenはアクセントのない –en という文字で単語が終わっています。こういったアクセントのない語尾は、「エン」とはっきり読まずに、「ェン、ゥン」ぐらいに脱力した感じの音で読みます。発音記号では [ə]となります。いわゆる、曖昧母音です。この強弱の対比がドイツ語のリズムを生み出していくわけです。
- 【補足】英語 bed とドイツ語 Bett に見られる発音の考え方の違い
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「ベッド」はドイツ語では Bett です。英語に慣れた感覚では、後ろに -tt とわざわざ2文字書く必要などなさそうなものですが、ドイツ語ではこのように二文字重ねることは前を短母音で読むために必要なのです。もし、Bet という綴りだったら「ベット」ではなく、「ベート」のように読んでしまうからです。
ドイツ語では komm は「コム」、kam は「カーム」のようになると理解しておくのは重要なことです。慣れてしまうと、文字の長短と後ろの子音字の数がきっちり対応しているドイツ語の方が読みやすく感じるはずです。
長母音の発音
ドイツ語は日本語や英語と同様、母音の長短を区別する言語です。どういうことかというと、「こな」と「コーナー」の区別が日本語にはありますし、英語には foot と food で母音の長短が異なりますよね。ドイツ語も母音の長短を区別する言語です。
では、長母音(長く発音する母音)の発音は、どうなるでしょう?
基本は、先ほどの短母音を「長く」発音するだけです。難しく考えずにいきましょう。
実際には長音化すると、どの文字も口の緊張度は高まり、少し舌が持ち上がった音(A以外では口の中が狭くなった音)になります。しかし、ほとんどの場合これらは初心者が意識的に使い分ける必要があるほど顕著な差ではありません。
ただし、Eの文字だけは、母音の長短で顕著な違いがあるのでしっかり区別したいところです。
E 短母音
[ɛ]
短母音のE[ɛ]は前述の通り、口を縦に広く開けた音です。
Bett ベッド
[bɛt] ※短母音
E 長母音
[e:]
長母音のE[e:]は、少し舌が持ち上がり、口を横に引っ張る要素が強くなります。結果、口の中は狭くなり、音は I に少し近づきます。
beten 祈る
[be:tən] ※長母音
こう考えると、Eの文字は、短母音の[ɛ]、長母音の[e:]、そして強勢のない曖昧母音の[ə]という、3つの音を持つことになります。カタカナで表すならどれも「エ」となりますが、この3つの音[ɛ/e:/ə]の違いはドイツ語の「音・響き」の根幹に関わる非常に重要なものです。初めのうちからしっかり区別するように練習しましょう。
強勢あり
①短母音[ɛ]→Bett
口の中が広い
②長母音[e:]→beten
口の中が狭い
強勢なし
③曖昧母音[ə]→beten
脱力した音
日本語話者にとって、特に意識しないと不自然に聞こえるのが②と③です。これらがカタカナの「エ」から脱却できるかがドイツ語が自然に聞こえるかの分かれ道になります。
では、強勢のある長母音に注意して、次のドイツ語を読んでみましょう。
Bibel 聖書
[bi:bəl]
beten 祈る
[be:tən]
Name 名前
[na:mə]
loben 褒める
[lo:bən]
gut 良い
[gu:t]
強勢のある母音の後ろに子音が1字だけですので、強勢母音が長母音になっているのがわかるでしょうか。
ここまでが基本の母音の発音です。
- 【発展】母音の長短が「ある・ない」言語
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母音の長短を区別するというのは、日本語話者にとっては当たり前のことですが、実は世界の言語の中にはこの区別が厳密には存在しない言語もあります。例えばドイツの隣国であるポーランドで話されているポーランド語ではこの区別が存在しないようです。そのため、ポーランド語話者がドイツ語を習得しようとするとこの長短の区別という概念を習得するのに苦労するという話を聞いたことがあります。
幸い、日本語話者にとっては長短の区別は当たり前すぎる現象なので、まったく難しくないですね。よかった。
ウムラウト
母音発音の基本は、あくまで IEAOU の5母音です。これらがしっかりできた上でないとこれからの話は実践できないと思ってください。
では、ここからはお待ちかね、「ウムラウト」の話です。ウムラウトとは、母音の上に点々がつく、あのドイツ語独特の文字のこととして知っている方もいるでしょう。ウムラウト(Umlaut)とは、音を転換させることです。Um「転換」Laut「音」です。では、どのように音を転換させるのでしょうか。
答えは、「音を出す位置が、前の方に移動する」です。舌が少し持ち上がり、各文字を口の前の方で発音するようになります。
先ほどの図を考えましょう。ウムラウトがあるのは、A, O, Uの3つの母音です。どちらかというと「口の後ろ側で出す」母音です。ウムラウトが付くと、これらの音を出す位置が口の前方に移動します。
音声は「ウムラウトなし」→「ウムラウトあり」の「短母音」→「長母音」の順で読んであります。
A [a] → Ä [ɛ]
Äは、短母音のE[ɛ]と同じ音です。この文字の発音を《「ア」と「エ」の間の音》のように日本語の基準で考えるのは絶対おすすめしません。(下の【補足】参照。)
O [ɔ] → Ö [œ]
「œ(カタカナ表記不可)」となります。O で口を丸く突き出したまま、(タマゴを口に含んだままで、)音を出す位置をタマゴの先の方に移動させます。百歩譲ってカタカナで書くと「エ」とも「ウ」とも聞こえるような音になります。この文字は、明確な発音をもった文字ですので、曖昧な感じにならないように気をつけましょう。
U [ʊ] → Ü [ʏ]
「ウ」→「ュ」みたいな感じになります。Uで口を突き出したまま、舌は少し持ち上がります。唇を丸く突き出したまま、というところがポイントです。日本語で「ュ」という最初の瞬間の音をずっと保つ感じです。
- 【補足】Ä の発音の説明はなぜ混乱しているか
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この記事では日本語話者にとってより習得しやすい短母音の発音から説明しましたが、実際、ドイツ語では「母音の読み方」というのは長母音を基準に説明されることの方が一般的です。なぜなら、ドイツ語では(実は英語においても)「その文字の長音の発音」=「文字の名称」だからです。
そのため、Eの文字は[e:]という名称で呼ばれます。母語話者とって、Eの発音は長母音の [i:] に近いような狭い[e:] であって、短母音の広い[ɛ] ではありません。そのため、ドイツ語母語話者が Ä=[ɛ]の発音を説明するとき、《E[e:] と A[a:] の間の音》と説明することがあります。狭い [e:] と [a:] の中間ですので、Ä=広めの [ɛ] となるのです。
これを聞いた日本語話者が、それを《「ア」の口で「エ」》やら、《「ア」と「エ」の間の音》、などと説明をし始めると、大いに誤解を生みやすい説明になってしまいます。日本語の「エ」は、先述したとおり、およそドイツ語の長母音 [e:] とは違うからです。実際、ネット上でなされている発音の解説を見てみると、ドイツ語の母音を日本語の物差しに当てはめて誤解してしまっている解説がとても多いように思えます。そしてその中の大半は、そもそも長母音[e:] と短母音 [ɛ] の違いに触れていません。というかそもそもドイツ語に長短の差があることすらスルーしている説明がほとんどです。
こういった混乱を避けるため、この記事では、まず短母音から導入し、日本語話者に理解しやすい短母音の広めの [ɛ] を基準点にしました。その上で、Ä の発音はこれと全く同じという説明をとっています。
実際、Gast「客」という単語は、複数形が Gäste となりますが、近代でもまだ Geste という綴りも見られたぐらいですので、Ä と短母音の E は本当に同じ音なのです。E の読み方で長短の区別がしっかりできている人は「○と○の間の音」といった誤解を招く説明を使う必要がなく、「Ä=短母音Eと同じ」という理解で解決します。この後出てきますが、ÄUとEUもドイツ語では全く同じ発音になります。Äと短母音Eの音価が同じ[ɛ]であると考えると当然のことです。
- 【補足】Ö の発音チェックポイント
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このÖは、これまで述べたEの文字の発音と並んで、日本語話者には一番難しいところです。逆に言うと、ここが意識してしっかりできると、それだけで一歩進んだ学習者になることができます。
この文字はカタカナで表記するのが不可能であるのですが、日本語では妥協的に「エ」の文字で表されることが一般的です。たとえば、地名の Köln は「ケルン」となります。ただ、これが厄介な話で、この単語を「ケルン(kerun)」と日本語風に読んでも、よっぽど外国アクセントに慣れているドイツ人でない限り理解されないでしょう。
カタカナでは「エ」と表記される Ö ですが、皮肉なことに、「エ」と聞こえるなら、その発音はうまくいっていないと考えた方がいいです。うまくできているか確認したいときは、自分の発音を録音してみて、「どちらかというとエ」と聞こえるなら改善の余地があると思ってください。「どちらかというとウ」みたいな方が正解に近いです。とにかく口を前後に使い、発音点を後ろから前に移動させる感覚をつかむことです。
また、この音は強勢のあるしっかりした母音です。中間音を意識して、脱力した曖昧な音にならないように、しっかり強く発音することが大事です。
ウムラウトの短母音の例です。
Hälfte 半分
[hɛlftə](ヘルフテ)
öffnen 開ける
[œfnən](ェッフネン)
開ける
füllen 満たす
[fʏlən](フュッレン)
続いて長母音の単語です。
Käse チーズ
[kɛ:zə](ケーゼ)
mögen ~を好む
[møːɡən](モェーゲン)
üben 練習する
[ʏ:bən](ユーベン)
- 【発展】öの長短
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発音記号を見てみるとわかるとおり、Öは短母音[œ]か長母音[øː]かで音が違うものとされています。発音に厳密にこだわりたい方は、Eのときと同じように長母音の時は口の中の空間を狭めにして発音してみてください。
特に、ÖとÜはカタカナで表記することに限界があります。いずれも、口を突き出して発音するのがポイントです。口の形をはっきり保って、曖昧に濁さず発語することを意識してください。
- 【補足】ウムラウトが起こる場面
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発音の話とは関係ありませんが、ドイツ語でウムラウトを目にする場面を簡単に紹介しておきます。今回は発音の話がメインですので、文法的な語形変化は詳しく扱いませんが、だいたいどんな使われ方なのかイメージできるように紹介しておきます。
①そもそもウムラウトがついている。
上の例では、Käse(チーズ)などはそもそもウムラウトが付いた単語として最初から覚えます。こういう単語もたくさんあります。②語形変化の結果ウムラウトが起きる。
ドイツ語は何かと語形変化が多いのですが、そこでウムラウトが起きる場面があります。具体的には次のような場面です。- 名詞の複数形をつくる
- 品詞を派生させる
- 一部の動詞の人称変化に現れる
- 形容詞の比較級・最上級をつくる
- 動詞を接続法にする
このように、名詞・形容詞・動詞の様々な変化をウムラウトが表現するのがドイツ語の特徴と言えます。変化のパターンをつかめると、一見ばらばらな変化が実は同じような考え方で起きているのがわかるものです。ドイツ語学習は楽しくなっていきます。
- 【発展】ウムラウトがなぜ起きるか
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ドイツ語が属する「ゲルマン語」というグループの言語の特徴の一つがウムラウトです。
この現象は、ゲルマン語がかつて持っていた古い -i- の語尾によって引き起こされたとされています。どういうことかというと、<i>以外の母音字の発音が、語尾の -i によって影響を受け、口の前の方で発音されるように変化したのです。最初の図で説明した通り、<i>は口の最も前方で発音する母音です。この母音が語尾に現れると、その前の母音も語尾に引っ張られるように前方で発音されるように移動したのです。これこそがウムラウトです。そのため、英語ではこの現象を “i-mutation” と読んだりします。日本ではもっぱらドイツ語の呼称「ウムラウト」を使います。
英語もゲルマン語ですので、このウムラウトは起きます。
おなじみのところで言うと、man の複数が men になるのはウムラウトに他なりません。古英語の時点ですでに複数は men でしたが、これはさらに古い形 *maniz のようなものがあって、その -i- を含む語尾によって引き起こされた変化とされています。foot → feet などもウムラウトですし、older → elder のような比較変化もウムラウトです。意外なところで言うと、fore(前の) の最上級、first(一番前の>最初の) もウムラウトによってできた語です。すべて後ろ母音(AやO)が前の母音(IやE)に移動しています。
ドイツ語がわかると英語の真の姿が見えてくるのが面白いところです。
「ウムラウト」という呼称は与えられていませんが、次のような音の変化もドイツ語にはあります。
ich gebe「私は与える」
du gibst「あなたは与える」これも発想はウムラウトと似ています。ここでもとにかく [i] の母音に向かって音が前方に変化するのです。
一方で、英語の動詞変化である sing-sang-sung というのは、ウムラウトではありません。この変化はドイツ語でも singen-sang-gesungen という風に、全く同じ母音が現れるのですが、こちらのほうは Ablaut「アップラウト(母音交替)」と呼ばれます。ウムラウトと違い、母音が前方に向かって移動しているわけではないですね。音変化もいろいろです。
二重母音
母音の最後は二重母音をまとめておきます。数はそれほど多くありません。
AU [au] アォ
割と、見たまんまの読み方です。「アオ」でもなく、「アウ」でもなく、その間といった感じでしょうか。どちらかというと、「アオ」と聞こえるような気がします。
AI, EI [ai] アイ
AIを「アイ」と読むのは見たまんまです。ドイツ語ではEIも「アイ」と読みます。ドイツ語では、AIというスペルを含む単語は非常に稀です。そのため、目にする頻度は断然後者の方が多いです。EIは「アイ」と読むと覚えておきましょう。
EU, ÄU [ɔy] オイ
この二つのスペルは、「オイ」といった音で読みます。Äは短母音Eと同じ音になるのでしたね。そのため、EUもÄUも同じものとなるわけです。通貨のユーロ(Euro)はドイツ語では「オイロ」みたいになります。
二重母音ではないですが、綴りのIEもよく出てきます。
IE [i:] イー
Iの長母音です。「イー」と伸ばします。(後ろのEは発音しません。)実は長母音の例で出した Bibel のように 単独の I だけで Iの長母音を表すことは稀で、大抵はこの IE の綴りで表します。
二重母音の例です。
Baum 木
[baum](バゥム)
Mai 五月
[mai](マイ)
Eis 氷
[ais](アイス)
Leute 人々
[lɔytə](ロイテ)
Bäume 木の複数形
[bɔyə](ボイメ)
bieten 提供する
[biːtn](ビーテン)
ローマ字読みと大きく違うのは、なんといってもEI(アイ)とEU, ÄU(オイ)です。最初は面倒くさく感じるかもしれませんが、ご安心ください。なにせこれらのスペルを含むドイツ語は無数にあります。普通にドイツ語を読んでいるといくらでもこれらのスペルをもつ単語に出会うので、すぐに慣れると思います。
以上がドイツ語の母音のおおまかな発音規則です。母音は、上記で説明した以外にもyなどいくつかあります。ただ、それらは外来語にしか見られないような例外的なものですので、ここでは省略し、あとで少しだけ触れます。
アルファベットの名称
ドイツ語アルファベットの名称をここで紹介したいと思います。
英語読みと違う部分も多いですが、考え方は同じです。
- 【発展】文字名のしくみ
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アルファベットの名称の付き方は一定の傾向があるので紹介しておきます。
- 母音AEIOUは、長音で各文字名前を表す
- 多くの子音は、自分の発音の後ろに [e:] の長音をつけて文字名とする。(C, D, G など)
- 唇を使う子音や、R,Sは自分の発音の後ろに[ɛ]の短音を添える
- K、Q は同じ子音の音を続く母音で区別
- その他は、J, V, X, Y, Z, ßは独自の読み方をする
この考え方は、大部分がそのまま英語のアルファベットの文字名にもあてはまります。文字の名前についてあまり考えて見なかった方は、これを期にぜひ再考してみるとオモシロい発見があるかもしれません。
ローマ字読みと同じ子音
ドイツ語の子音の半分以上は、ローマ字読みと同じ発音をします。一気に紹介します。
ローマ字読みと同じ子音
L, M, N, P, B, T, D, K, G, F, H
これらの文字は、割と英語やローマ字の感覚で通用するものです。
- laden [laːdn](ラーデン)
積む - Mann [man](マン)
男 - neun [nɔyn](ノイン)
(数字の)9 - platt [plat](プラット)
平たい - Blatt [blat](ブラット)
葉っぱ - Tanne [tanə](タンネ)
モミの木 - denken [dɛnkən](デンケン)
考える - kaufen [kaufən](カォフェン)
買う - Gips [gips](ギプス)
石膏 - Fall [fal](ファル)
場合 - haben [ha:bən](ハーベン)
持っている
※ Hは母音の後では発音せず、前の母音を長音化します。
※ NG は英語と同じく [ŋ] という鼻に抜けるような音です。キングと言うときのNです。まあ、「はっきりとGと言わない」ぐらいの意識でも十分です。
- gehen [ge:ən](ゲーエン)
行く - lang [laŋ]
長い
ローマ字読みと違う子音
以下の文字は単独でドイツ語ならではの読み方をします。ローマ字や英語の感覚は妨げになりかねませんので注意してください。
J [j]
カタカナで言うならヤ行で読みます。
R [r]
語頭や、母音の前では、喉の奥で、ガラガラ鳴るような音です。英語のRとは相当違います。練習あるのみです。ちなみにフランス語のRも同じ音です。語末や母音の後では、緩んだ「ァー」のような音になって、Rとしては発音しないことがほとんどです(イギリス英語とも似た感じです)。
V [f]
[f]の音で発音します。ドイツ語では、文字のVもFも同じ音となるわけです。ただ、外来語では英語同様 [v]と読むことも多いです。
W [v]
濁る[v]です。ドイツ語では非常によく使う文字です。
QU [kv]
上記の通り、英語の [w] の音はドイツ語では [v] となるので、QU も [kv] と後ろが濁ります。ただし、この綴りを持つ単語もそれほど多くはありません。
S+母音 [z]
母音の前の単独のSは必ず濁ります。ザ行です。
Z [ts]
必ず「ツ」の子音になります。Suzukiはドイツ語読みで「ズ・ツ・キ」です。ドイツ語ではよく使う文字です。(ドイツ語のキーボードでは、YとZの文字が英語と入れ替わっています。おそらく、Zの方を遙かによく使うからです。)
SS, ß [s]
ßはドイツ語特有の文字で「エスツェット」と呼びます。音は濁らないサ行の[s]です。母音の前でないSや、二文字続いたSSも同じく[s]で読みます。語頭に来ることはありません。
例をどうぞ。
- Jacke [jakə]
上着 - Reise [Raizə]
旅行 - Volk [fɔlk]
民衆 - Wagen [vaːɡn]
車 - Quelle [kvɛlə]
泉 - sagen [zaːɡn]
言う - Zucker [tsʊkɐ]
砂糖 - beißen [baisn]
嚙む
Zuckerの例にあるように、語末の -er [ɐ]は緩んだ「アー」みたいな音で読まれます。このように、母音の後のRはRとして発音しないことも多いです。
- 【補足】場所によって違うRの発音
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Rの文字は、場所によって発音が変わります。発音が不安な方も多いと思うので、簡単にまとめておきます。
①母音の前のR→[r]
(喉の奥のがらがら音)
※ 特に強勢母音の前や語頭ではしっかり口の奥を震わせましょう。逆に、強勢のない母音の前ではちょっとだけ震わせれば十分です。②語末の-R, -ER→[ɐ(:)]
(ゆるんだ母音化)③子音の前のR→[r]でも[ɐ]でも
※ 日常的には母音化が一般的です。ただ、[r]と「ちゃんと」発音したらおかしいなんてことはありませんのでご安心ください。①の例
rot 赤い
[ro:t]Ruhe 休み
[ru:ə]fahren 行く
[fa:rən]②の例
Tür ドア
[tʏ:ɐ]Bier ビール
[bi:ɐ]teuer (値段が)高い
[tɔʏɐ:]③の例
warm 温かい
[varm] [vaɐm]Herz 心
[hɛrts] [hɛɐts]Berlin ベルリン
[bɛrli:n] [bɛɐli:n]
組み合わせで読む子音
その他、組み合わせでドイツ語特有の読み方をする子音をまとめましょう。
CH, SCH, ST, SP, TSCH, CHS
以上の文字はドイツ語特有の読み方をします。すべて、この組み合わせで1文字分の音となります。
A/O/U以外+CH [ç]
AOU以外のすべての文字(I/E/Ä/Ö/Ü/子音)の後は、「ヒ」のような音です。日本語の「ヒ」の子音とほぼ同じです。ICH, ECHは「イッヒ」「エッヒ」と読みます。
A/O/U+CH [x]
A/O/Uの後のCHは、「ハ」です。口の奥で、「ハ」見たいな音です。Hよりも奥で鳴ります。ACH, OCH, UCHは「アッハ」「ウッフ」「オッホ」みたいな感じですが、口の奥で音が鳴っていることに気をつけてください。
SCH [ʃ]
「シュ」です。この音になるときは、必ずSCHの3文字を使います。英語のSHにつられてCを書き忘れないようにしてください。SHという文字連続は通常のドイツ語にはありません。
語頭のST [ʃt]
語頭のSTは常に、「シュトュ」です。
語頭のSP [ʃp]
語頭のSPは常に、「シュプ」です。
PF [pf]
pfという綴りは、pで唇を解放すると同時にfを言います。英語で語頭が p- である単語は、対応するドイツ語が pf- で始まります。
TSCH [tʃ]
「チ」の子音です。ただ、この綴りを含む語はそれほど多くありません。
CHS [ks]
二重子音で、[ks] という子音です。
-IG [iç]
語尾にくる-IGは「イッヒ」と読みます。ICHの「イッヒ」と同じです。形容詞に多く見られる語尾で、英語の rainy の –y にあたります。形容詞に語尾がつくと、通常通り[ig]となります。
※ 多くの入門書にはこのように記載されていますが、実際には -IG を [ik] と発音するドイツ人はずいぶん多いです。
例をどうぞ。
- Bach [bax](バッハ)
小川 - ich [iç](イッヒ)
私 - Schule [ʃuːlə](シューレ)
学校 - Stein [ʃtain](シュタイン)
石 - sprechen [ʃprɛçn](シュプレッヒェン)
話す - Pfeffer [pfɛfɐ]
胡椒 - Tschüs [tʃʏs](チュース)
さよなら - sechs [zɛks](ゼクス)
(数字の)6 - billig [biliç](ビリッヒ)
いかにもドイツ語らしい音が並んでいますね。最後のbillig「ビリッヒ」は「ビリック」のように読む人も多いです。現代ではどちらも正しいと言えるでしょう。
- 【補足】前母音・後ろ母音と子音
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<CH>の子音の発音を考える上で、重要なのが先行する母音が「前母音」か「後ろ母音」かの違いです。後ろ母音はA, O, U の3つで、前母音は I, E とウムラウト[Ä, Ö, Ü] です。(ウムラウトとは、後ろ母音が前に移動する現象でしたね。)
<後ろ母音+CH> では、子音CHの発音も、母音に合わせて口の奥側で鳴ります。
<前母音+CH> では、子音CHの発音は、口の前方で鳴ります。
このように、子音の発音も先行する母音の発音位置に引っ張られるのです。繰り返しになりますが、口の前後を意識して発音をすることはやはり重要なのです。
- 【補足】語頭の S+[子音] は /ʃ]
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※以上の3つからわかりますが、ドイツ語では、英語の <S+[子音]>に対応する語頭音は /ʃ/ の音になります。
英語 ドイツ語 swim schwimmen stone stein speak sprechen ドイツ語では語頭の S音に子音が続くと /ʃ/の音になる変化が起きました。st- と sp- は綴りは英語と同じでもやはりこの変化が起きているのです。その他の子音に続くときは sch- の綴りを採用します。
語末の子音は弱くなる
各文字の発音規則は以上です。厳密に言うと、まだいくつかあるのですが、初級のうちから頻度が低いものを掘り下げても仕方ないのでこのへんにしておきます。
最後に、ドイツ語の語末の子音についてです。
ドイツ語は基本第1音節にアクセントがあって、その結果、語尾は曖昧に発音するのでした。それと似た発想で、語末に来る子音は、弱くなってしまいます。
どういうことかというと、語末の有声子音は、無声になってしまうわけです。B, D, G, Sが語末に現れても、[b] [d] [g] [z]と濁らず、[p] [t] [k] [s]となります。語末の子音群に含まれていたら、どの文字も濁りません。
語末子音群における有声子音の無声化
B → [p]
D → [t]
G → [k]
S → [s]
例をどうぞ。
- Rad [ra:t](ラート)
車輪 ※ラードではない - Stab [ʃta:p](シュタープ)
棒 ※シュターブではない - sagst [za:kst](ザークスト)
あなたは言う ※ザーグストではない
以上がすべて、ドイツ語の発音の基本的なルールです。これを押さえておけば、大部分のドイツ言の単語が正しく発音できます。規則が多いように感じるかもしれませんが、一つ一つ整理していくと決して難しくはないはずです。
特にウムラウトやCHの子音の発音は、前後の母音という考え方があって初めて実現可能な音ですので、まずは最初の5母音の発音を徹底的に練習することをおすすめします。
外来語の発音では通常のドイツ語の規則が当てはまらない単語もありますので、以下ではその中で頻度の高いものを紹介します。あくまで基本はPart 1, 2の部分ですので、そこが不安な人は読み飛ばしてもらっても構いません。
ドイツ語に現れる外来語のほとんどは、フランス語、ラテン語、ギリシア語由来です。最近では英語からの外来語も増えてきています。それらの単語ではアクセントが後ろの方の音節にあることが多くなります。
Y [ʏ] [i]
Yの文字はドイツ語では母音です。ギリシア語由来の単語の場合、大抵はÜ[ʏ]と同じ音で読みます。(I[i]と同じでもいいとされる場合もあります。)英語由来の単語の場合は、I[i:]と同じになります。
-TION [tsio:n]
語末の-TIONは、[ts]という音に始まり、最後の-ONにアクセントを置きます。ラテン語系統の名詞に見られます。
PH [f]
PHは[f]で読みます。ギリシア語由来です。日常語ではこの音にはFの文字が当てられます。Foto(写真)、Telefon(電話)などたくさんあります。PHのスペルを保ったものは、ギリシア由来の単語の中でも学術的な単語が多いです。
TH [t]
THのHは発音しません。Tと同じ音です。ギリシア語由来の単語に見られます。
PS- [ps]
語頭のPS-はそのまま見た目通りの音です。後に母音が来てもSは濁りません。ギリシア語由来です。
System システム
[zʏsˈte:m] [zisˈte:m]
※ギリシャ由来
Hobby 趣味
[hɔ́bi]
※英語由来
Information 情報
[informaˈtsio:n]
Philosophie 哲学
[filozoˈfi:]
Thema テーマ
[ˈte:ma]
Psychologie 心理学
[psʏçoloˈgi:]
「プシュ・ヒョ・ロギー」とすべての文字を読みます。
外来語の場合はアクセントがドイツ語本来の発音規則が当てはまらなかったり、特殊な語形変化をする単語も多いです。そんなとき、ここで紹介した文字は外来語かそうでないかを判断する重要な指標になります。ドイツ語に慣れてくると、ドイツ語本来の単語かそうでないかは感覚的に判断できるようになってくるものです。
- 【補足】英語・フランス語の読み方を当てはめた外来語
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以下に挙げる単語は上記の規則が通用しない例外的な単語です。ただ、ドイツ語にはこういう単語は本当に少ないので、出てきたときに気をつけて発音するだけで問題ありません。例外的だけどよく使うという単語を簡単に紹介しておきます。(学習の初期段階で覚えなくても大丈夫ですのでご安心ください。)
フランス語由来の単語フランス語由来のドイツ語はたくさんあります。その中には、以下のようにフランス語の発音を保ち、ドイツ語としては極めて例外的な発音をするものもあります。
Chance(機会),
Chef/Chefin(シェフ)
Courage(勇気)
Engagement(政治的なコミット)
Garage(ガレージ)
Genre(ジャンル)
Journalist(ジャーナリスト)
Orange(オレンジ)英語由来の単語英語由来の単語は、比較的新しい単語が多いです。コンピュータやIT関連語などで英語の単語は着実に増えています。
Computer(コンピュータ)
Handy(携帯電話)
Hobby(趣味)
Job(アルバイト)
jobben(アルバイトをする)
Jogging(ジョギング)
joggen(ジョギングする)
googeln(グーグルで検索する)
downloaden(ダウンロードする)
以上ですべてのドイツ語の発音規則を紹介しました。
複雑そうに見える規則も、一つ一つ整理していくと、極めて明確なルールに支えられているのがドイツ語の特徴です。ウムラウトというのは、ひとつひとつ別個に覚えるのではなく、発音する位置が前方に移動するという根本的考え方を理解しておくのは、今後の学習のために非常に重要です。
ドイツ語の考え方を理解しておくと、新しいことを習ってもすでに知っていることと関連付けてすぐに身につけることができます。逆に、すべてを箇条書き的に丸暗記していると言語の習得は非常に効率が悪くなります。
もちろん、時間をかけること自体は悪くないのですが、やはりできるだけ限られた労力で最大の効果を得たいというのが多くの人の本音だと思います。
ドイツ語の発音は、ひとつひとつ、しっかりドイツ語で考える。これを標榜して今回の記事を作成しました。繰り返しになりますが、カタカナ発音との距離感をつかむために日本語を使うのはいいのですが、それをドイツ語の発音を考える上での基準点にしてはいけません。
今回紹介した発音で、差が付くところは、やはり「ウムラウト」と「Eの母音の3つの発音」です。これができるだけでかなりドイツ語らしい発音になります。それだけに徹底的に意識して練習していきたいものです。
この記事では、通常の入門書では触れられていないような言語の背景にある事柄まであえて紹介しています。これは、他の入門書がだめだというわけでは決してありません。入門書は入門書で考え抜かれた説明になっているものです。しかし実際、紙面の関係で多くのことは紹介できないのです。ここでは、ネット上の記事という、文字数に自由度が効く形式ですので、発展的な内容であってもあえて詳しめに説明しています。特に初心者の人こそ知っておくとドイツ語学習が面白くなるような事項は妥協せず伝えようと努力しました。
発音の練習とは、自分以外の何者かに自分を常に合わせていくという作業です。これは自分のことを客観視し、常に謙虚に自分の発音を見つめることに他なりません。そしてそれができるかは、優れた言語学習者になるための最大の鍵ではないでしょうか。どんな時でも初心を忘れず、常に発音をアップデートしていくような学習者でありたいと私も思う次第です。