【祖語 *pleu- の世界】流体の洪水、空気をつかみ、空へ

imaizumisho

印欧語幹シリーズ、今回は前回の *bhel-³「膨らむ」の続きとして、 *pleu-「流れる」 の関連語をさらに紹介していきます。

略語一覧
  • F フランス語 French
  • Gc ゲルマン祖語 Germanic
  • Gr ギリシャ語 Greek
  • Ita イタリア語 Italian
  • L ラテン語 Latin
  • OE 古英語 Old English
  • OF 古フランス語 Old French
  • ON 古ノルド語 Old Norse
  • Spa スペイン語 Spanish

この印欧祖語シリーズでは、一般の英語学習者にとって特に重要度が高いと思われる単語を青字で示しています。黒字の単語は、英検1級・C1レベル以上の上級単語です。また、”<” と “>”の記号はそれぞれ派生の方向を示しています。

*pleu-

雨降る

まず、この語幹は「雨が降る」を意味するラテン語 pluere にたどり着き、英語にいくつかの難単語をもたらします。plu- が pul- になったり、pne- になったり変化します。空気の流れを制御する「肺」もこの仲間です。

pluvial 雨の
pluvious 雨の

pulmonary 肺の<L pulmo 肺

pneumonia 肺炎< Gr pneumon[pleumon] 肺

おなじみの英単語では、「流れ」を宿す意味するゲルマン語が見られます。

flow 流れる< OE flowan
flood 洪水< OE flod

Pluto プルート、冥王星< Gr ploutos 豊かさ<あふれ出る

ここまでは前回紹介したところです。

*pleuk-

飛ぶ

「流れる」の *pleu- は、ゲルマン語系で、一律に *fleu- の音をまといます。このシリーズではおなじみの「p-f仲良し関係」です。専門用語では「グリムの法則」と言います。

意味は「流れる」から、空気の中を流れる→「飛ぶ」へと転じていきます。

fly 飛ぶ<OE fleogan<Gc fleugan
fly ハエ<OE fleugon 飛ぶ虫
flee 逃げる<OE fleon
fledge (ひな鳥)を飛べるまで育てる;一人前になる<OE *flycge
fledgling 羽の生え立ての
full-fledged 一人前の
flight 飛ぶこと<OE flyht

fowl 鶏、雌鶏;家禽<OE fugol 鳥

flow から fly へ、言葉はなめらかに流れ着きます。「空飛ぶ鳥」も「ハエ」も、ひとえにこの仲間です。ドイツ語では鳥は Vogel と言います。「ワンダーフォーゲル」(Wandervogel)はドイツ語で「渡り鳥」です。flugelhorn「フリューゲルホルン」という楽器もあります。flugel はドイツ語の Flügel「翼」から来ていると思われます。

フランス語で「矢」を表す flèche もゲルマン語系でこの仲間です。

*pleud-

漂う

「流れる」「飛ぶ」には、スピード感を持って風や水を切るように移動する様子もあれば、ゆったりと「漂う」こともあります。

fleet 艦隊;一団<OE fleotan 漂う、泳ぐ
fleet(動物などが)足の速い
fleeting はかない、短い


float 漂う、浮く<OE flotian 漂う
flotsam 漂流貨物<OF floter<Gc
flotation 浮力
flottila 小艦隊、小型船団<ON floti 筏、艦隊

flutter 羽ばたきする floterian 前後に漂う

flit(鳥や蝶が)場所から場所へすいすい飛ぶ、ひらひら飛ぶ<ON flytja 運ぶ

fluster(急がせて・あれこれ言って)~をまごつかせる、イライラさせる、混乱させる<(?)北欧系

float のイメージから flutter flit という単語へとイメージが広がっていくのがおもしろいです。この語幹は、何より船や鳥、蝶の動きと相性がいいです。

参考文献
  • Watkins, Calvert (2011), The American Heritage Dictionary of Indo-European Roots, Houghton Mifflin Harcourt
  • Shipley, Joseph T. (1984), The Origins of English Words – A Discursive Dictionary of Indo-European Roots, The John Hopkins University Press
    [印欧祖語から各現代語に続く変遷を考えるならこの2冊がおすすめ。]
  • Barnhart, Robert K.(1988), Chambers Dictionary of Etymology, Chambers Publishing Limited
    [個人レベルで所有できる語源辞典の中では最高峰の1冊。]
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yarusena
yarusena
巷の英語教員・語学人間
2019-2020年にかけて存在したサイト『やるせな語学』をリニューアルして復活させました。いつまで続くやら。最近は古英語に力を入れています。言語に関する偉大な研究財産を、実際の学習者へとつなぐ架け橋になりたいと思っています。
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