【祖語 *euə- の世界】空っぽだから欲しくなるのです

imaizumisho

印欧祖語 *euə- は何かを「捨てる、見捨てる」という意味を担っていたと推測されています。そこから、「捨てられた、欠けている、空の」というように意味を広げていきました。ウワーッっと、バーッっと広がる感じです。

英語本来語では wane という単語があります。あまりなじみがないかもしれませんが、wax and wane「(月の)満ち欠け」という意味で使います。比喩的に「物事の盛衰」としても一般的によく使われます。

この語源については、ポッドキャストの「英単語WISE UP!」の vacuum の回で取り上げていますのでよかったらお聞きください。

略語一覧
  • F フランス語 French
  • Gc ゲルマン祖語 Germanic
  • Gr ギリシャ語 Greek
  • Ita イタリア語 Italian
  • L ラテン語 Latin
  • OE 古英語 Old English
  • OF 古フランス語 Old French
  • ON 古ノルド語 Old Norse
  • Spa スペイン語 Spanish

この印欧祖語シリーズでは、一般の英語学習者にとって特に重要度が高いと思われる単語を青字で示しています。黒字の単語は、英検1級・C1レベル以上の上級単語です。また、”<” と “>”の記号はそれぞれ派生の方向を示しています。

ラテン語で vacare「空である」という動詞から派生した語は vac「空の」という語幹をもって日常語から難単語まで非常に多くの語彙を形成します。また、ラテン語の形容詞 vanus「空の」からは、満たされない心を満たそうとする気持ちを表す語ができていきます。

vacant空いた<L vacare「空いている」
vacate空ける
vacation休暇
vacuity心の空虚
vacuum真空
void虚無
avoid~を避ける
devoid(of)を欠いている
evacuate避難する
vain無駄な;虚栄心の強い< L vanus「空の」
vanity虚栄心
vaunted(正式)ご自慢の
evanesce消失する
vanish消える

一部では、va-st の語尾がつきます。広大な場所に捨てられた感じが残っています。ラテン語 vastus「空の」から派生したのは vast と waste です。これらはまったく同じ単語から派生した二重語(doublet)です。ラテン語あるいは中央フランス語由来の vast に対して、北部フランス語の waste です。どちらも、見捨てられた荒涼感が漂っています。

wasteゴミ、無駄遣いする<L vastus「空の」
vast広大な
devastate(土地を)荒廃させる

ゲルマン語系では、waste の北部フランス語(or 北欧フランス語?)と同様、w- の音が残っています。より直接的に何かが「欠けた」状況を表します。

wane減少する<OE wanian「減少する」<Gm *wan「~を欠いた」
wanton理不尽な、抑えられない、淫らな、伸び放題の
want欲する<ON vanta「欠けている」<Gm
参考文献
  • Watkins, Calvert (2011), The American Heritage Dictionary of Indo-European Roots, Houghton Mifflin Harcourt
  • Shipley, Joseph T. (1984), The Origins of English Words – A Discursive Dictionary of Indo-European Roots, The John Hopkins University Press
    [印欧祖語から各現代語に続く変遷を考えるならこの2冊がおすすめ。]
  • Barnhart, Robert K.(1988), Chambers Dictionary of Etymology, Chambers Publishing Limited
    [個人レベルで所有できる語源辞典の中では最高峰の1冊。]
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yarusena
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巷の英語教員・語学人間
2019-2020年にかけて存在したサイト『やるせな語学』をリニューアルして復活させました。いつまで続くやら。最近は古英語に力を入れています。言語に関する偉大な研究財産を、実際の学習者へとつなぐ架け橋になりたいと思っています。
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