アメリカ文学の名作で英語多読  絶対外せない作品を紹介します

imaizumisho

英語がある程度できるようになってきたら、洋書を読んでみるのがおすすめです。今回は、洋書多読の教材として定番中の定番であるアメリカ文学の名作について紹介していきたいと思います。

世界文学の傑作を通して英語を学びたい方向けに、英語の難易度についても簡単に触れています。ストーリーについてはあまり踏み込まないので、あらすじが知りたい場合は、アマゾンのページなどでご確認ください。

※この記事は『(旧)やるせな語学』(2019年1月)に投稿されたものを加筆修正したものです。

「ライ麦畑」 ぼくはおかしいの?

People always clap for the wrong reasons.

―J.D. Salinger, The Catcher in the Rye

『アメリカ文学』なんてあんまりピンとこない人でも、名前ぐらいは聞いたことがあるのでしょうか。

サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』です。村上春樹訳では、カタカナでそのまま『キャッチャー・イン・ザ・ライ』です。文学好きなら誰もが読んだことがあるような小説です。

英語の多読教材としてもよく紹介されていますね。

サリンジャーの作品は『ナイン・ストーリーズ』『フラニーとズーイー』など4作品ほどですが、この『ライ麦畑』が一番英語も読みやすく、かつ一番名の知れた作品です。

ストーリーについてはあまり今回の記事では踏み込みませんが、まあ、かなりざっくり言うと、青春小説の傑作というところです。主人公の高校生の数日間の彷徨の中で、様々な大人と関わって成長する(?)という感じの話です。

タイトルの由来は劇中で明かされます。

英語は口語的な表現が多く、あまり学校で習わないような言い回しも多いですが、数ページ読むとすぐに慣れると思います。

英語の難易度としては洋書の中でも読みやすい方で、英検準1級レベルの語彙力があるとそれなりに楽しみながら読むことができると思います。

英語は簡単と紹介されることの多い本書ですが、サリンジャーという作家は文章を扱う技術はアメリカの作家の中でも最高クラスだと思います。何度読み直してもその文章のうまさ、一見砕けた感じの英語に隠された、完璧なまでにバランスのとれた英語の世界に新たな発見があります。

サリンジャーの本は、主に2つの出版社の版が出回っています。ペンギン版の方が新しく表紙もおしゃれな感じですが、かなり字が小さいので、読むのに苦労するかもしれません。

Little Brown版は、これぞペーパーバックという風情の本で、軽くて良い感じに質の悪い紙に読みやすいサイズのフォントで印字されています。

サリンジャーの本は、著者の意向でIntroductionなどの解説文は一切収録されていません。そのため、どのバージョンでも中身は全く同じです。

『ライ麦畑』はもう一つ講談社英語文庫にも収録されています。こちらは巻末に注釈がついているので、初心者におすすめです。日本人になじみのある文庫本サイズです。その上、時代背景の理解が必要な語なども解説されているので、上級者でも結構有用です。ただ、見た目は日本の文庫本なので、ペーパーバックの香りはあまり味わえません。

『ライ麦畑』を読んだら、短編集『ナイン・ストーリーズ』や、『フラニー』『ズーイー』などを読んでみるのもおすすめです。『ライ麦畑』よりは英語の難易度は上がりますが、サリンジャーのまた違う文体に触れることができます。

ちょっと変わった登場人物が多数登場するサリンジャーの作品世界から、お気に入りのキャラクターを見つけてみてもおもしろいかもしれません。

「老人と海」 永遠の敗北? いや…

The sail was patched with flour sacks and, furled, it looked like the flag of permanent defeat.

―Earnest Hemingway “The Old Man and Sea”

ノーベル賞作家、アーネスト・ヘミングウェイの代表作『老人と海』です。

20世紀アメリカを代表する作家であるへイングウェイは、この作品をきっかけにノーベル賞を受賞することになったとされています。

『誰がために鐘は鳴る』『武器よさらば』といった長編や『キリマンジャロの雪』といった短編がありますが、最も読まれている作品はこの『老人と海』ではないでしょうか。

長さはちょうど長編と短編の間といったところで、薄めの文庫本といったところでしょうか。英語が得意な人だったら、1日もあったら読んでしまえるような分量です。

『老人と海』は、やはり文学作品であるので語彙的には初心者にはなかなか難しい単語も多いです。しかし、無駄な修飾語をそぎ落として簡潔に表現された英文自体は、どちらかというと平易な方です。

「ハードボイルド」などと形容されますが、無骨なまでに淡々と物語を紡ぐスタイルは、ヘミングウェイの真骨頂で、その作品内容と相まって、多くの読者を魅了してきました。

英検準1級レベルの英語力があれば、時に海洋生物や漁業に関する用語を調べつつ、楽しみながら読んでいけると思います。

「ティファニー」 映画を見る前に

Never love a wild thing…If you let yourself love a wild thing. You’ll end up looking at the sky.

―Truman Capote, Breakfast at Tiffany’s

続いて紹介するのはトルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』です。

かっこいい作家は誰か、と言われたら、私はアメリカでは真っ先にカポーティを思い浮かべてしまいます。

カポーティという作家は、ノンフィクションノベルの傑作と言われる『冷血』や、短編小説が素晴らしいのですが、(特に日本での)知名度はこの『ティファニー』が一番でしょうか。

この作品がよく知られているのは、オードリー・ヘップバーンが主演している映画版がこちらもまた有名になったからだと思われます。日本では村上春樹訳(新潮文庫)が出ているので、映画と相まって日本での知名度も高くなっています。

カポーティは、長編『遠い部屋、遠い声』で若くしてデビューし、その才能で一気に文壇の寵児となります。作品数は実はそれほど多くないのっですが、カポーティの特徴は、なんと言ってもその繊細で透き通るように美しい文体です。

カポーティは感性の作家であり、文章芸術の作家だと私は思っています。「天才」という形容がこれほど似つかわしい作家は世界を探してみてもそういません。

サリンジャーが饒舌さの裏に隠された文章芸術の作家だとしたら、カポーティは、優しさと研ぎ澄まされた水晶のような文章で読者を魅了する作家といえるでしょうか。その文章は優しく、哀しく、時に異様な迫力を帯びるほど美しく繊細です。

『ティファニーで朝食を』の英語自体は、ペーパーバックの多読用としてよく紹介されることもあるほどなので、それほど難易度は高くありません。こちらも英検準1級ぐらいの英語力があるならストーリーを理解するにはそれほど苦労はしないと思います。

この作品に登場するホーリー・ゴーライトリーというヒロインは、映画を見たことがある人はやはりオードリー・ヘップバーンのイメージが強いでしょうが、見たことない人は、先に小説を読んでみることをおすすめします。

カポーティが描き出すこのヒロインほど読者を魅了してきたキャラクターはそれほどいないのではないでしょうか。

「天才」的な文章作家の言葉を原文で味わってみるということは、必ず何か新しい世界に目を開かせてくれる発見をもたらすはずです。1度読んでしまっても、また読み直すとまた新たな発見があるはずです。

このペーパーバックもいろいろな版があります。Penguin Modern Classics版では文字も大きく、結構読みやすいです。

「ギャッツビー」 過去へと運ばれて…

Daisy began to sing with the music in a husky, rhythmic whisper, bringing out a meaning in each word that it had never had before and would never have again.

―F. Scott Fitzgerald, The Great Gatsby

「アメリカ文学といって真っ先に思い浮かぶ作品は?」

こうと聞かれたら何が思いつくでしょうか。

『ライ麦畑』かもしれませんし、『ハックルベリー・フィン』かもしれません。

それでも、「アメリカ文学」と言って最も多くの人が思い浮かべるのは、やはりフィつジェラルドの『グレート・ギャッツビー』ではないでしょうか。そして、多くの人が、『ギャツビー』と言われたら、「まあ、確かに」納得するのではないでしょうか。

フィツジェラルドの生前、出版当時はそれほど大ヒットしたわけではないそうですが、今や、訳者の村上春樹さん曰く、アメリカのどの書店にも必ず置いてある本だそうです。

フィツジェラルドの作品は、長編『夜はやさし』やジャズ・エイジ時代を代表する短編群などが人気ですが、知名度はこの『ギャッツビー』が抜きん出ています。

それ故、英語の多読教材としてもよく紹介されるのですが、フィツジェラルドの英語自体は、決して初心者が読みやすいような文章ではありません。

「いかにも小説」という感じの、ある意味「古典的な」言い回しも多いです。そして、フィツジェラルド独特のリズムを持った、村上春樹さんの言う「旋律的な」美しい文章であるが故、読解の難易度は上がっています。

初心者がうかつに手を出すと、小説の素晴らしさが分かる前に挫折してしまうこともあるので、そこは要注意です。語彙は1級レベルぐらいあって、それなりに英語の小説を読み慣れた人でないと、自由に楽しみながら読むのは正直厳しいです。

自分の英語力は足りないけどそれでもこの小説を味わいたいという方は、分からないところは翻訳を参照しながら読んでみても良いと思います。ストーリーだけなら翻訳でも十分ですが、その英文の独特のリズムや伸びやかな美しさを感じるにはやはり英語で読んでみないと分からない部分も多いです。

フィツジェラルドの気取った感じの世界観があまり好きではないという人もいるのは事実です。そうだとしても、『ギャツビー』はアメリカ文学において、様々な作品で引用されるような傑作です。やはり英語に強くなりたいなら必ず読んでおくべき本だとぼくは思います。

まとめ 読書案内にかえて

今回は、英学習者向けに、アメリカ文学の超ド定番の名作を紹介しました。

ストーリーについてはあえて触れないように書きました。すべての作品が、何よりストーリーを味わう作品であるからです。あらすじなんて読まずに読み始めてもいいと思います。

楽しく読むだけなら最近の小説や映画化されているような作家の本を読むのも十分に有益です。名作や古典なんて教科書的で退屈でつまらないという考えも無理はないと思います。

それでも、今回紹介したこれらの作品は、文学史上の名作であり、文章芸術の粋であると同時に、エンターテインメントとしても一級品といっていいような作品です

どの作家も、優れたストーリーテラーであると同時に、独特の文体を使い分けている優れた文章作家です。この4作品は、どの作品もかなり個性的でおもしろい文体で書かれています。作家による文体の違いを味わいながら、英語の文章の豊かな表現を学んでみてもいいでしょう。

文章作家であるがゆえ、どこから読んでも、どの行を読んでも、何度読んでも読むたびに発見があります。最近のベストセラー小説には、なかなかこういった「文章で」読ませるような作家はいません。

私の個人的な読書経験を述べさせてもらうと、ぼくは高校生の時に『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と『老人と海』を読みました。

サリンジャーは4つの作品(集)が出ていますが、私は『ライ麦畑』が一番好きですね。饒舌感をどっぷり味わいたいなら『フラニー』が一番です。

ヘミングウェイは、実を言うと私はちょっと苦手な作家です。(自分自身がなんともしょうもない人間であるので、「人間の偉大さ」みたいなものを語る小説がどうも苦手のようです…。)

大学に入ってしばらく英語から離れていましたが、アップダイクとの出会いをきっかけに英語をまた読むようになり、3回生のときにカポーティの『ティファニーで朝食を』を読みました。

カポーティは今回紹介した作家の中では、私が一番好きな作家です。いろいろありますが、『夜の樹』や『無頭の鷹』などの短編が一番好きです。長編ならデビュー作の『遠い部屋、遠い声』がいいですね。『ティファニー』とはかなり雰囲気の異なる作品で、こちらの作品の方が、天才作家の「すごみ」みたいなものが圧倒的に発揮されていると思います。(英文難易度は上がります)

フィツジェラルドは実はこの中では一番最後に読みました。『ギャッツビー』は分量としてはそれほど長くありませんが、それでもかなり苦労して読みました。その後村上春樹訳を読んでまた英語で読み直して、と繰り返し読んでいます。

かなり長い作品ですが、長編『夜はやさし』もおすすめです。フィツジェラルド研究社の森慎一郎先生の翻訳が一番新しく、読みやすいです。

英語読解力・理解力を伸ばすためには、多読に勝る学習はありません。ぜひ「名作」を皮切りに、英語で書かれた小説の素晴らしい世界を味わってみてください。

原文だけでは苦しいときは、適宜翻訳を参照しながら読んでみても良いと思います。

挫折してしまっても、本棚の目に届くところに置いておきましょう。

いつか読む日が来るはずです。きっと。

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yarusena
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巷の英語教員・語学人間
2019-2020年にかけて存在したサイト『やるせな語学』をリニューアルして復活させました。いつまで続くやら。最近は古英語に力を入れています。言語に関する偉大な研究財産を、実際の学習者へとつなぐ架け橋になりたいと思っています。
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