元・英英辞典読書家が、英英辞典のメリットと使い方について語ります

imaizumisho

※この記事は、『(旧)やるせな語学』に投稿された2019年の記事を加筆修正したものです。

英語の辞書を選ぶときは、長らく付き合うパートナーを選ぶようなもので、慎重になります。そのなかで、英英辞典という選択肢が浮かぶ人は、学習者のどれぐらいでしょうか。英英辞典には肯定派と不要派の論争がありますが、今回は英英辞典を使うメリットを考えてみたいと思います。

先にデメリット

英英辞典の利点を紹介するつもりでしたが、先回りして、先にデメリットを述べておこうと思います。

英英辞典のデメリットは、なにより、時間がかかることです。日本語の訳語を見るのは一瞬ですが、英英辞典の定義はそれなりに「読む」という作業が必要なため、時間がかかります。

このため、英英辞典を使うのは、読書しながら、知らない単語に出会うたびにいちいち調べるなんて使い方には向いていません。

また、当然ですが、英語の定義を読んで理解できるぐらいの英語力が必要となります。ABCを習い始めた中学生が英英辞典なんて持っていてもそりゃあ使えません。定義中に知らない語があったら、また調べないといけないかもしれません。これでは本末転倒です。

基本的に、英英辞典は、学習するための辞書だと思います。単に意味を知るだけなら英和辞典、もしくはネット辞書でも十分です。単語の正確な意味や用法をより深く知りたいときに(知ってる語だとしても)改めて引いてみて、学ぶところがあるようなときに、英英辞典は活躍するのです。

英英辞典のメリット2つ

デメリットもいろいろあるのですが、メリットも多い英英辞典です。英英辞典の主な利点は2つあると思います。

1.単語の正確な意味が分かる

英英辞典の最大のメリットは、英単語の本当の意味が分かるということです。多くの英単語集には、単語に当たる日本語をできるだけ簡潔な意味で掲載しています。たとえば、受験向けの超有名英単語集には exploitという動詞に、次のようなフレーズと意味を載せていました。

exploit the natural resources
天然資源を開発する

この訳語だと、exploit=「開発する」という日本語を覚えてしまいます。これをみたある高校生は、「画期的なロボットを開発したい」みたいなことを言いたいとき、次のように書いてしまいました。

I want to exploit innovative robots.

単語集に載っていた意味をしっかり覚えて、ちょっと難しめの単語を使って表現した努力はすばらしいのですが、英語が分かる人からしたら「?」となる英文です。

それもそのはず、exploitという単語は、辞書では次のように説明されています。

1.to treat someone unfairly by asking them to do things for you, but giving them very little in return – used to show disapproval.
(ほとんど見返りを与えないのに、何かをやってもうように、不公平にたのむことで、誰かに接すること。不満を表すために使われる)

2.to try to get as much as you can out of a situation, sometimes unfairly.
(ある状況から、ときに不公平なまでに、できるだけ多くのことを得ようとすること)

3.to use something fully and effectively.
(何かを完全に、そして効率的に使うこと)

4.to develop and use minerals, forests, oil etc for business or industry.
(鉱物や森林、石油などをビジネスや産業のために開発して利用すること)

(参考:「ロングマン現代英英辞典4訂版」桐原書店)

おそらく4の意味から、その単語集ではexploit=「開発する」という訳語を掲載していたのでしょう。訳語としてはなんら間違っていませんが、開発は開発でも、天然資源などを扱うときに使う単語であるということが英英辞典を読めば分かります。

そう考えると、exploit robotsとしても「ロボットを開発する」という意味の英語にはならないことが分かります。

むしろ、この英文を最初に見たとき、私は1~3の意味を最初に想定してしまいました。英和辞書には「搾取する」といった意味が載っているはずです。いずれにせよ、1と2に含まれているunfairlyという語が大きなニュアンスを占めています。

人や団体が目的語になると、アンフェアなまでにそいつを扱ったり利用したりすることを、exploitと言うわけです。だから、exploit robotsと言うと、ロボットに過酷な労働でもさせて、自分はのんびりやっているみたいな絵が想像できるわけです。

こういった事態が起きてしまうのは、英語の意味をうまく日本語で表すことができない単語があるからでしす。英語―日本語の1対1で対応する言葉など、本当の意味ではありません。

単語集には、かろうじて日本語に移し替えたらもっとも端的に表しそうな言葉を載せているだけです。これは、単語集や辞書の執筆者が悪いと言っているのではありません。多くの場合、そもそも「訳」することには限界があるのです。

日本語の「侍」を英語でpremodern Japanese warriors(前近代の日本の武人)と説明したところで、「侍」のサムライ感みたいなものはどうしても表せません。これは極端な例ですが、「訳」をするとき、どんな場合でも、言語の間を近道する代わりに、なにか意味の欠片のようなものを犠牲にしているのです。

その点、英英辞典の定義は、より本来の言葉の意味に寄り添った説明になっています。exploitという単語のニュアンスというか、イメージを得ることができるわけです。それがあると、developという単語のとのニュアンスの違いもはっきりと意識できます。

2.会話に必要なパラフレーズ力

英英辞典を使うメリットのもう一つは、会話に必要なパラフレーズ力を磨くことができるという点です。パラフレーズとは、要は言い換えのことです。

語学ができるということは、ある意味、パラフレーズができるということに他なりません。一つの言い方を別の言い方で言い換えるわけです。考えてみれば、言語を使うと言うことはパラフレーズの連続です。日常的に知らない単語にあったら、無意識のうちにそれを言い換えて捉え直したりしながら私たちは生きています。

一般の辞書には単語が何語収録されているでしょうか。

1万語? 2万語? 10万語?

英和辞典の代表である『ジーニアス英和辞典(第5版)』には10万5000語が収録されていると言われています。

では、母語話者は一体どれぐらいの単語を知っているのでしょうか。

1万語? 2万語?

一般的に、英語母語話者の語彙は2万語と言われています。そう考えると、母語話者だろうと、辞書に載っているほとんどの単語は知らないわけです。まして、ほとんどの単語は使えないわけです。(知っているからといって、「使える」とは限りません。私たちだって、読めても書けない漢字はいくらでもあります。)

辞書に載っている単語はほとんど知らなくても、生きていく上で、言語上の不自由はネイティヴスピーカーにはありません。それは、知らない語でも、自然と言い換えることができるらです。

英語を外国語として話すとき、これを表したいけど、その単語を知らない、なんてことは上級者でもよくあります。それでも英語がある程度話せる人は、普通にコミュニケーションがとれます。なぜなら、知らない単語でも言い換えて説明することで、何のことを言っているか表すことができるからです。

私もつい先日、アメリカ人の知り合いと話していて、「関節」という単語をどう言うのか分からなかったので、「肘とか手首とかの、骨と骨のあいだのここ」みたいに説明して分かってもらうという経験がありました。

分からないことはそれなりに言い換えながら生きているのです。基本的な単語だけで英会話はできるというコンセプトの書籍はだいたいこういった言語の「言い換え特性」に根拠をおいていることが多いようです。

こんな本もあります。

英英辞典を引いておくことで、普段から英語で何かを説明する練習にあります。これは、ライティングだろうがスピーキングだろうが、英語で何かを表現するときにとても大切になる力です。

おすすめは英英辞典はやっぱり「ロングマン」

では、英英辞典はどれを使ったらいいのでしょう。私のおすすめは、断然「ロングマン」です。

英英辞典には「オクスフォード」も有名ですが、ロングマンの簡潔で的を得た定義は読んでいてしっくりくるものが多いです。

「ロングマン」は、2000語の専用定義語彙を使ってすべての単語を説明しているので、語義の中にそれほど難しい単語は登場しません。知りたい語彙を簡潔かつ明朗に説明していルという点で、他の辞書には追随を許しません。また、例文も使いやすいものが多いです。語義説明で出てきた意味をイメージしやすい例文になっています。

また、ロングマンでは、話し言葉と書き言葉の頻度が高い順番にS1とかW1といった記号がつけられていて、どの単語のどの意味がより頻度の高いものなのかが一見して分かるようになっています。

最近はオンライン版も無料で使えるので利用しない点はありません。お気に入りに入れておくととっても役に立ちます。

まとめ――時には英語をもって英語を制す

英英辞典の使い方は、いろいろですが、英語が結構できるという人でもなかなか使い方に悩んでいるという人は多いです。

英英辞典を、単語の意味を調べるために普段使いしていると言う人はどちらかというと少数派だと思います。英英辞典は、より深い学習用と割り切って使うのが初めのうちは一番いいと思います。

英単語集などを使っていると、どうしても意味がピンとこなかったり、なんかこの単語覚えられないなあ、という語があるものです。そういった語は、そもそも自分と相性が悪い語だと思います。そんなときこそ英英辞典を引いてみて、その意味の奥深さや広がりを感じてみるのはいいことだと思います。

普段から使うか使わないかは別として、英英辞典という選択肢があるということは、学習において大きなメリットです。いままで使ったことがなかったという人は、これを気に、無料のネット版でもいいので、選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。

私は、高校生の時、授業中暇なときは(基本英語の授業は暇でした)、英英辞典をぱらぱら読んで過ごしていました。なんとも懐かしい思い出です。

いずれにせよ、英語について何か新しい発見があるような教材は、必ず手元にあった方がいです。いつ役に立つか分からなくても。

ジャパンタイムズの単語集は英英をコンセプトにした非常に使いやすい単語集です。

ABOUT ME
yarusena
yarusena
巷の英語教員・語学人間
2019-2020年にかけて存在したサイト『やるせな語学』をリニューアルして復活させました。いつまで続くやら。最近は古英語に力を入れています。言語に関する偉大な研究財産を、実際の学習者へとつなぐ架け橋になりたいと思っています。
記事URLをコピーしました