英検1級を考える――「ネイティブでも難しい」神話、「だれでもとれる」という噂について

imaizumisho

英検の1級は、日本で実施される難関語学試験の中でも最も受験者が多い、レベルの高い試験です。今回は、この英検1級について、どのぐらいの難易度なのか、どのように対策をしていけば合格に近づけるのか考えてみたいと思います。

※ この記事は『(旧)やるせな語学』(2018年10月)に投稿された記事を、加筆修正したものです。

英検1級を持っていると…

英検の1級とは、どのぐらいの難易度でしょうか。最初にがっかりさせてしまうのも申し訳ないのですが、英検1級を持っているからと言って、英語がペラペラだとは限りません。

英検1級はヨーロッパの言語参照枠CEFRにおけるC1レベルだとされています。

CEFRのC1レベルといえば…

英検1級 CSEスコア 2630-3299
TOEFL 95~120
IELTS 7.0-8.0
TOEFL(LR&WS) 1845-1990
ケンブリッジ英検CAE(Advanced) 180-199

もちろん、中にはネイティヴ並に英語ペラペラという方もいらっしゃると思います。

でも、1級の面接試験に合格するには常によどみなく流ちょうに英語が話せないといけないというわけではありませんし、洋書を読んでいて知らない単語なんて普通に出会います。

とはいっても、日本の英語検定の最高レベルです。1級を持っていると、英語を普通日本人はしないぐらい勉強しているといえるでしょう。

実際完璧でないにしても、ネイティヴスピーカーとやりとりをする中で、なんとか言いたいことはどのようなことだって伝えることができ、相手が言っていることが理解できると思います。

やっぱり、ほとんどの人は到達できないレベルですし、しようともしないレベルでもあるのは事実です。1級を持っていたら、「わたし、英語できます」と、ある適度自信を持って言えるようになるのではないでしょうか。

大学入試では英検1級ほどの難易度のものはほとんどありませんが、早稲田・慶応の一部の学部の入試は英検1級と同等レベルの語彙レベルを要求してくることもあります。特に早稲田大学国際教養学部・社会科学部・理工学部などの入試問題は英検1級の読解問題よりも得点するのは難しいというのが私の印象です。

英検1級の合格率(低い。だが、子どもでも…。)

英検1級の合格率は10%前後と言われています。受験者数は年間3万人以下ということが言われていますので、一年に3回ある試験の合計合格者数は3000人もいないぐらいです。これは京大に毎年合格する学生数よりも少ないぐらいの数字です。

中高の英語教員でも1級を持っている人は一握りになります。(ちなみに文科省は英語教員はCEFRのB2レベル〔=英検だと準1級レベル〕の資格を取得するようにと呼びかけています。)

英語の先生は、1級持ってますみたいな人間が現れることを、実は心のどこかで恐れているところがあります。たまにいますからね、子どもで1級持てる人。怖い怖い。

英検1級の難関ポイントと対策

英検1級を受験する人がつまづきやすいポイントは、以下の3点が多いようです。

1.12000語レベル超の語彙問題

2.長くて専門的なリスニングPart2

3.社会問題について即興で2分間スピーチ

以上の3点が、多くの受験者を苦しめるポイントだと思います。

逆に言うと、これらのポイントをしっかり対策を立てて突破できるように計画を立てて勉強していくと、それほど恐れることはないわけです。勘違いしてほしくないのは、これらを突破するために、専用の特訓をたくさんして、問題を解くテクニックを身につけるべきだと言っているわけではありません。

こういった問題があるということをしって、普段から学習を重ねていくことが大切だということです。その中で、この形式の問題だけでなく、様々な場面に通用する英語力をつけていくと言うことが目的です

忘れてはいけないのは、試験で正答をするのが目的ではなく、「実用英語技能検定」が標榜する、「実用的な英語」を身につけることが最大の目的であるということです。

その意識付けができていると、1級に合格した途端、勉強をやめて、実力がどんどん落ちていく、なんてことにはならないと思います。(合格することと同じぐらい大切なことだと思います。)

では、それぞれのレベルと、学習について考えてみましょう。

課題① 英検の代名詞、語彙問題

英検1級の語彙問題は、受けたことない人でも噂には聞いていると言うぐらい、難しいことで有名な問題です。

勘違いしてはいけないのは、難しいというのは、あくまで日本人にとってであり、ネイティヴスピーカーにとってではありません。ネイティヴもほとんど知らない、などとたまに聞くのですが、それははっきり言って嘘です。普通の教育を受けたネイティヴなら普通に知っている単語です。

英検の語彙問題の特徴は、難単語の中でも、CNN・BBC・TIME・The Economistなどの高級な報道機関で使われるような、高尚な香りのする単語が多いことです。どちらかというと、エリート層が好んで使いそうな語彙が多く、俗っぽい単語や表現はあまり出てきません。

逆に言うと、知識人層が当然のように使う表現を理解するためには、英検1級の語彙問題レベルの単語を学習しておくことが不可欠だというわけです。

単語のレベルはと言うと、10000語から15000語レベルの語彙が必要だと言われています。

2018年第1回試験の語彙問題に出てくる単語84語(単語の問題は4択×21問あります)を、分析してみました。

このうち、アルクのSVL12000語に含まれていない単語数は、2019年試験では以下の通りでした。

2018年第1回試験…24語
2018年第2回試験…25語
2018年第3回試験…16語

※語彙問題(単語)の全選択肢84語中

SVLの12000語とは、アルクが「学習者にとっての重要度」と「ネイティヴの使用頻度」に基づいて12000語の語彙リストです。

1級の語彙問題の選択肢は、だいたい4単語に1語以上の割合でそこに含まれていない単語であるということになります。

やはり難易度としては、それぐらい高いわけですね。TOEFL100点超える人でも対策をしていないと全然点が取れないと言われるのはこういった理由があるのです。

とはいっても、実際には知っている語の派生語であったり、語源を知っていたりと意味を類推できる単語も含まれているので、12000語を覚えていたら、体感ではもう少し分かる単語があるのではないかと思います。

語彙問題は、4つの選択肢のうち、3つ意味が分かれば、正解を選ぶことができます。4つの単語は、意味は全然違う単語なので、正解を知っている場合は、あきらかにそれだという単語を選ぶことができます。選択肢のうち3つ知っててどれも正解ではなさそう、というなら残りの一つが正解になるわけです。

というわけで、1級の語彙問題を、余裕を持って合格するには12000語ぐらいの語彙が必要だと言うことになります。

語彙問題の対策をしよう

英検1級の語彙対策本としては、次の3点が定番となっています。

旺文社『パス単1級』

ジャパンタイムズ『出る順で最短合格! 英検1級単熟語 EX』
『英語を英語で考える 英英単語 上級編・超上級編』

アルク『究極の英単語 vol4 超上級の3000語』
『究極の英単語プレミアム 1・2』

1級ともなると、ほかの級より教材の選択肢が一気に減ってしまいますね。単語集はまだ充実してる方だと思います。『英検1級単熟語EX』『パス単1級』はレイアウトもとても似ていて、収録内容も大きな違いはないので、好みで選ぶといいでしょう。

私は類義語や派生語の記述がより充実している『パス単』の方が好みです。一方で、『EX』の方が収録語数は400語ほど多いです。上の二つは、英検を詳細に分析した、「英検に出る・出た」単語を集めた、いわば英検に特化した単語集です。

『究極の英単語』の方はそうではありませんが、取りこぼしを減らすなら必ず学習しておくことをおすすめします。

『究極の英単語』に収録されているアルクのSVL12000語を知っているというのは英語力の指標として、自分は単語をこのくらい知っているという目安にできます。そのうえ、なんだかんだでこのレベルの単語は洋書を読んでいたら普通に出会う単語だからです。

『パス単1級』『究極の英単語 vol4』の単語をすべて覚えたら、派生語などで意味が分かる単語を含めて、14000語ぐらいの単語は意味が分かると思います。つまり、英検1級用の単語集として有名な単語集をしっかり学習すれば、ほとんどの語彙問題は正解できるといえるでしょう。

リーディングセクションで最も問題数が多い語彙問題ができれば、1次試験は大きく合格に近づくと思います。まずは、語彙力をしっかりつけることが何より大切なわけです。

課題② リスニングの最難関は第2問

リスニング問題の第2問は、リスニングセクションの中では最も点数がとりにくいところだと思います。原因は、科学や社会のことなどのある程度専門的な内容の長めの文章を、隅から隅まで聞いておかないといけないからです。

ここで得点できないときは、原因を考えてみてください。

原因① 読まれる英語が聞き取れない。

原因② 読まれる英語は聞き取れるが、何のことをいっているか分からない。

原因③ 読まれる英語は聞き取れるが、集中力が続かない。

まずは、1級リスニングの第2問で得点ができない場合は、まず原因を見極めないといけません。そのために、過去問の音声を聞いてみてください。(公式サイトでは、過去3回分無料で聞けます)

①と②はリスニングではよくある現象なので、よくある一般的な対策ぐらいしかやることはありません。

1級レベルの人で、あまり①が原因であることはないと思います。もし原因が①であるようなら、正しい音読や、場合によってはディクテーションなど、オーソドックスな練習法で少しずつ練習していくしかありません。

②の「読まれる英語は聞き取れるが、何のことをいっているか分からない」が原因の人は、英語を読むスピードが遅いということが考えられます。

当たり前ですが、リスニングでは、英語を理解する処理速度が、読まれるスピード以上でないと正解はできません。音は分かるけど、内容が分からん、という場合は、読むスピード追いついているか考えてみてください。

リスニングのスクリプトは読んでみたら、リーディング問題の文章よりはずっと簡単な文ですが、それを一瞬で理解できるぐらいにはリーディング力も高めておかないといけないというわけです。

リスニングが安定して得点できるためには、せめて読解セクションではある程度の時間の余裕を持って時終わるぐらいの読むスピードが必要です。

1級受験者にとって、リスニング第2問で得点できない原因として案外多いのが原因③の「読まれる英語は聞き取れるが、集中力が続かない」ではないでしょうか。私も最初は間違いが多かったのですが、原因は③だったと思います。

リスニング問題を最初から最後までやって得点できないなら、もう一度第2問だけ取り出して聞いてみてください。

それでもだめなら、一回外をぶらぶらするなどして気分をリフレッシュして、もう一回第2問だけ再生してやってみてください。普通に正解が選べるなら、③が原因だと思います。

文章が長いと、なかなか続かないんですよね、集中って。リスニングはこっちのコンディションとは関係なしにどんどん試験が進んでいくので、一回集中が切れると、その問題は聞き取る能力はあっても分からないなんてことがあるものです。とくに30分以上のリスニングになるとまあよくあることです。

それが原因なら、対策は、集中力をつける!しかありません。例えば、BBCやCNNの眺めのニュース番組を聞く、とかありきたりの対策です。

30分番組を聞き通すとなると、私なんかはもう最初の5分ぐらいで左から右~みたいな感じになってしまいます。そのため、勉強のために聴こう!というときは、メモをとりながら聴くようにしています。

本物のニュース番組は容赦ないスピードでメモなど追いつかないのですが、要点だけメモにとりながらやっていくことで、集中が続くスパンを少しづつ伸ばすことができると思います。

まあ、こればっかりは、けっこう本番の気持ちのもっていき方で、結構差が出たりもするものです。リスニング試験中は、適度に脳を休ませつつリラックスして聞き取っていくことも長続きするこつだと思いますね。

ちなみに英検のリスニング試験はイギリス英語も含まれるので、イギリスのメディアを活用するのもいいと思いますね。

私のおすすめは、イギリスの公共放送BBCの「BBC WORLD NEWS」です。30分ぐらいの番組で、その日の世界のニュースをまとめて知ることができます。

難しいので、言われることの半分ぐらい理解することを目標にしたらいいと思います。ニュース英語は、社会性のあるテーマが多い英検の対策としても、よい選択肢だと思います。ホームページやPodcastで配信されているので、一度聴いてみてください。(ただ、スクリプトはないんですよね…)

もう一つはYouTubeで「TEDed」「VOX」「Kurzgesagt」などの動画を見ることです。政治や科学の話題をとてもわかりやすくて、短い動画にまとめられていて、楽しみながらリスニング練習ができます。日本語や英語で字幕を表示したり非表示でき、字幕の大きさも変更できたりするので、学習もとてもしやすいです。

そして、これらの動画は、内容からしてライティング・スピーキングのためにも格好の教材で、無料ですし、本当におすすめです。いちど見てみてください。こういった教材がいまはネット上にたくさんあるので、英検の1級を受けるなら、買う教材は単語集とライティング本1冊で十分だとぼくは思います。

英検のリスニングは1級といえども、容赦ないようなスピードで話されるから難しいということはあまりなく、読まれる内容が高尚で、スクリプトが長いために難しいということの方が多いと思います。そのため、少しレベルの高いニュース番組やネット動画を普段から聞いておくことで、楽しみながら試験に対応できる実力をつけることができると思います。

課題③ 最後の難関 2分間スピーチ

英検の2次試験は、なんといっても2分間の即興スピーチです。

1級に合格するということは、すなわち、形はどうであれ、あるテーマを与えられて2分間モノローグを展開できるというこである、ともいえるわけです。

1級のスピーチでは、面接が始まってから、5つのテーマが書かれた紙が渡されて、そこから1分間で1つを選んでスピーチを組み立てます。

テーマ自体も、現代社会に関するテーマが多く、普通の人なら対策をしておかないと、日本語でもなかなか話すのは難しいようなものになっています。

たとえば、私が1級を受けたときに選んだテーマは、 “Should Japan encourage more entrepreneurship?”(日本は起業をもっと奨励すべきか)というものでした。このテーマが自分の得意とするテーマであったわけでもなく、5つのテーマの中で1番このテーマがまだ話せそうだったという理由でこのテーマを選びました。

こういった内容で話さないといけないため、「小学生で英検1級合格」なんてニュースを見たりすると、英語力と言うより、まずこの内容が話せるということが、驚きですね。

英語力だけなら帰国子女だったり英才教育を受けていたりすると、子供でも英語ペラペラなんてのは珍しいことではありません。ただ、こういったテーマが話せるとなると、そのためにちゃんと「勉強」していないと厳しいのではないかと思うからです。

私が1級を受けたときも、会場に子どもの受験者が何人かいましたが、「君たちは『日本は起業を奨励すべきか』とか聞かれたら、なんて答えるんだい」とでも聞きたい気分でした。

対策としては、ライティングの練習でいかにスピーキングを意識するか、というのが鍵になると思います。

1級のライティングは専用の問題集で30題ぐらい自分で作文をしておけばかなり高得点がとれると思います。おすすめは、ジャパンタイムズの『英作文問題完全制覇』というものです。英検1級のライティング専用の問題集としては、これか旺文社のものしかありませんが、使いやすさ、汎用性という点では、こちらの方が一歩上を言っている気がします。

スピーキングにつなげるためには、ライティング問題を自分で作文した後が大切です。作文問題の解答例は、しっかり読むべきです。読んで、読んで、音読して、できたら覚えるぐらいに読み込むといいでしょう。

スピーキングでは、ライティング問題になっているようなテーマについて、ほとんど同じ分量を一瞬で考えながら話さないといけません。英語四技能というのは、決して書く技能が独立しているわけではなく、お互いは密接につながりあって、関わり合っているものです。ライティング練習の時に、スピーキングを意識しておくだけでも学習を有機的につなげていくことができるはずです。

注意したいのは、何も解答例を丸暗記するべきだと言っているのではありません。幅広いテーマについて、即興で話すべきこことが頭の中で整理され、どういう表現を使うべきかが分かるぐらい体にしみこませながら音読しておくことが必要だということです。

こういって、普段の学習からスピーキングを意識しておくことで、余裕をもって2次試験に取り組むことができます。本当はリーディング・リスニングをやっているときも、口頭で内容を要約してみたり、質問に英語で答えてみたりと独り言でもいいので話す意識を持つべきなのです。

すべての学習はスピーキングにつながるという意識で、普段から学習していけば、英検の2次試験は決して超えられない壁ではありません。

まとめ――英検1級の向こう側には

英検の1級は、日本人学習者なら誰もがあこがれる難関試験です。英語ができるようになりたい人なら誰もが憧れるレベルですし、多少なりとも誇れるレベルだと思います。

しかし、英検1級を持っているからと言って、本当にネイティブ並みに英語がペラペラに話せる人は少数派でしょう。映画やドラマの英語がすべて理解できるということも1級のリスニングよりはるかにハードルは上がります。

つまり1級は最高級ではありますが、決してゴールではありません。TOEFL110IELTS8.0などのの最高得点層は英検1級合格よりも難しいでしょう。ケンブリッジ英検には、CAE(Advanced)が英検1級と同等とされていますが、さらにその上にCPE(Proficiency)という最高峰のレベルがあります。国連英検特A級の語彙問題に太刀打ちできるようになるには、英検1級の語彙問題はほとんど満点近く得点できないときついです。

大学入試でも早稲田・慶応の一部の学部は英検1級よりも得点するのが難しいような問題を出題してきます。

英検1級をゴールとせずに、さらに英語の高みを目指すための通過点と思えるか、それが英検1級を超えた先の豊かな言語の景色を味わえるかどうかの分かれ目かもしれません。

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巷の英語教員・語学人間
2019-2020年にかけて存在したサイト『やるせな語学』をリニューアルして復活させました。いつまで続くやら。最近は古英語に力を入れています。言語に関する偉大な研究財産を、実際の学習者へとつなぐ架け橋になりたいと思っています。
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