大学入試の英語ってどうなの――東大・京大の入試問題に何を思うか

imaizumisho

大学入試の英語は我が国において、英語学習の方向を定める点において、非常に大きな影響力を持つ試験です。英語力がもっとも成長するであろう3年間のゴールに存在するのが入試であるので当然です。今回は、東大京大の英語について、特徴や最新事情を振り返りたいと思います。同時に、受験生以外の一般学習者が大学入試問題から学べることについても考えてみましょう。

※この記事は「(旧)やるせな語学」(2018年11月)に投稿したものを、加筆修正して公開しています。

東大英語――基礎知識と運用力に重点

東大英語の特徴

東大の英語は、標準的な英語を、実際に「使って」相手の考えを理解し、自分の考えを伝えることができるかを判断する、優れた試験です

試験時間120分に対して、答えるべき問題は多岐にわたり、外部民間試験であるTOEFLやIELTSといった試験の問題をこなしていくように素早く問題を処理していかなければなりません。

また、大学入試の常として、日本語の要約や和訳問題で、読み取った内容を適切な日本語で正確に記述する力も必要になります。世界に通用する知識人として当然知っておくべき英語の基礎から応用力までを様々な問題形式で問いかける東大英語は、まさに日本の大学入試の最高峰であり、最高品質の問題であるといえます。

かといって、問題が極めて難しいかというとそうでもなく、時間の制約があることを考えると確かに難易度の高い試験ですが、よく言われるように、一つ一つの問題は大学入試のなかでも決して難しい方ではありません。

また、答えるのが極端に困難であるような難問奇問もありません。しかし、一方で、テクニックだけで簡単に乗り切れるような単純な問題もありません。

東大英語はその点で、すべての英語学習者が一度は取り組んでみる価値がある問題であると思います。日本を代表する大学の、日本を代表する頭脳の持ち主が考えた英語の問題を一度も見たことがないという英語学習者は、ちょっともったいない気がします。

東大英語だけに特化した過去問集は駿台から出版されています。青本は、各年度の試験を年度の順位並べています。

赤本からも東大英語に特化した版は出ています。こちらはジャンル別に配列されています。

問題構成

それでは、例年の東大英語の問題ラインナップを見てみましょう。

大問1長文読解(A)日本語要約
(B)長文読解(空所補充・段落整序など)
 70~80字の記述選択式・15~20語の記述
大問2英作文(A)自由英作文
(B)和文英訳
40~70語程度の自由英作文
2~3行程度の日本語文の英訳
大問3リスニング選択式
大問4(A)文法
(B)長文中の下線部和訳
 誤文指摘や並び替えなど
長文中の下線部和訳
大問5小説・エッセイの読解総合問題選択式・一部記述

2018年から英作文の和文英訳が復活し、現在も2023年も続いているのが目につきます。2017年というと、ちょうど「四技能改革」が声高に叫ばれ出していた頃で、入試の流れは和文英訳から自由英作文という感じだったのですが、それに逆行するような変更が印象的でした。英語4技能などの話がある前から、東大英語では、大学入試の主流であった和文英訳を廃し、考えを述べたり、特定の状況を説明させたりする自由記述の英作文に完全に移行していました。

現在では、大学入試のスタンダードはむしろ自由英作文になりつつあります。そんななかで東大が、あえて「時代遅れ」ともとられかねない和文英訳のスタイルに立ち返ったというのは注目に値することだと思います

自由記述もいいけど、安易で即物的な実用主義に走るのではなく、しっかりとした揺るぎない表現力が必要なのであるというメッセージのように思えてなりません。

確かな表現力をつけるためには、思いついたことを書くだけでなく、他人の知恵ある言葉を誠実に表現できるようになる練習をしておくことも必要であるというのは、スピーキングだ!会話だ!という世の中の風潮への一つの警鐘なのかもしれません。

自由英作文はシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』からの引用についての考えを述べるものであったり、本格的な小説の読解問題があったりと、ほかの大学ではあまり見かけないような趣向の問題です。

東大英語のすゝめ

東大の問題は、英語について考えさせることで、その背景にある「ことば」の世界について思いをはせることができるような優れた問題が並んでいると思います。

東大の語句整序は、文を読んでいく中で、英語のリズムが体に染みついているかを聞いてくるような問題で、決して私立大学の入試にあるような特定の文法事項・構文を知っているかを問うような問題ではありません。

形式は同じでも、東大が何を大切にしているか、ということを考えるには、いいかもしれません。文も短く、短時間でやることができるので、東大の問題を垣間見たい英語中級者以上の方は、この問題だけでもちょっとのぞいてみることをおすすめします

いずれにせよ、問題の流れとして、最初に少し固めの論説文を要約させるところからスタートし、でも要約やざっと読むことだけが大切でなく、しっかり細部を味わう大切さも教えてくれるのが東大の問題の優れた点だと思います。

優れた英語の試験とは、英語学習について考えるときに、何らかのインスピレーションを与えてくれる問題であるとぼくは思っています。そう考えると、東大の英語はまさにそういった問題ではないかと思うのです。

京都大学――真っ先に批判されるやつ

京大英語の特徴

京大の英語は、特異です。いろんな意味で。

まず目につくのは、読むべき英文の少なさ。読解問題は大問2つで合わせて3~4ページぐらいです。120分の英語の試験としては、入試だろうが英検だろうがTOEFL・IELTSだろうが、ほかのどの試験でもまず例を見ないほどの圧倒的な語数の少なさです。

たとえば、共通テスト・リーディングなどでは、80分で本文や選択肢も含めて20ページ以上ぐらいの英語を読まないといけません。東大の英語ではリスニングを除く90分で、10ページ弱ぐらいの英文を読まないといけないことことを考えると、京大の120分で3~4ページという英文量の極端な少なさが分かるでしょう

京大は日本の大学入試英語の象徴とでもいうべき、英文和訳と和文英訳の2種類しか出さないという超絶オーソドックスなスタイルを貫いていました。問題文もシンプルで、

大問1 次の英文を読んで、下線部(1)~(3)を和訳せよ。

大問2 次の英文を読んで、下線部(1)~(3)を和訳せよ。

大問3 次の日本語(1),(2)を英語に直せ。

みたいな、味も素っ気もないある意味恐ろしい試験でした。そしてその見た目の威圧感というか風格に負けないぐらい、英文自体の難易度や解答をつくる難易度が恐ろしいぐらいに高い試験でした。

ある参考書には、「京大の問題は、うわべだけの表面的なテクニックでは通用しない。英語力のみならず優れた日本語の表現力を試すには、この形式が最適なのである。」みたいなことが書いてありました。

私なんかは、不遜なものでして、いやあ、大学の先生、問題作るのめんどくさいだけなんじゃない?なんて疑念を持ったりもしてしまいます。いや、そんなことないだろうと思いつつも、でもやっぱり、そんなことなくもないのでは…、なんて心の隅で思ったりもしてしまうのです。

英語の問題つくらなあかん。
めんどうやな~。
ちょうどいま読んどる論文でも題材にするか。
こことここに下線でも引いといて、これでよし。
完成や。
採点面倒やろけどほかの人がやるしええか。
さ、研究の続き続き。

なんて思ってるんじゃないかと考えてしまいます。まったく不遜な推論ですね。でも、こんな考えが許される大学があるとしたら、「自由の学風」を謳う京大こそまさにそんな大学なのではないかとも思うのです。一つだけ言えることがあるとしたら、大学の先生にとって、入試というのは面倒なイベントであることは間違いないでしょうから。

そして間違いなく採点は大変だと思います。英語に限らず、京大の入試は全科目記述量が多いです。とりあえずシンプルな問題と、でっかい解答欄は与えるから、あとは自由に自分の力を表現しなさいや、とでも言われているかのようです。

そんな京大の英語は、和訳と英訳だけということもあり、長年、「こんなことばっかりやってるから日本人は英語が話せるようにならないんだ」という批判の矢面に真っ先に立たされてきました。

和訳と英訳の技術だけ入試で仕込んだところで英語は話せるようにならないというのは批判としてはまったく的を射たものだと思いますし、無理からぬことだと思います。私自身、やはりこのスタイルの英語の試験にはちょっと有用性について疑問を抱いてしまうところがあります。深い知識と確かな表現力は必要なのですが、その「実用性」の幅が、一般の学習者には限られているからです。合格者の中でも圧倒的言語センスを持つ人間を引き出すには向いているのかもしれませんが、一般的な語学の教材としてはなかなか使いづらいところがあるのは事実だと思います。

そんな京大ですが、ここ10年ほどは、ついに長大で難解な和文英訳を半分廃止し、自由英作文を導入しました。「積ん読」とは何かという2人の人物の会話にふさわしい文を補うという問題でしたが、長年変化のなかった京大の問題傾向が変わったことがまず衝撃的でした。こういった自由英作文は形を変えながらも2023年まで踏襲されています。

自由英作文は年によって違いますが、確かな知識を備えつつ、なんかしら「オモロイ」考えを持つ人間を求める京大らしさが十分に出た問題を私なんかは期待しています。(私の期待など何の価値もないんですが。)

以来、読解の問題でも和文英訳の割合が少しずつ説明問題や、それまでなかった選択式の空欄の語句補充問題が出ることがあります。2023年はずいぶん久しぶりに読解問題は下線部訳のみに戻りました。

京大英語について知りたいなら、まずは赤本に当たるのがベストです。「25年」は読解と英作文をわけて配列しています。

京大英語のすゝめ

京大の問題は、大学入試の中でも英検やIELTSなどの「実用」的な英語の試験とは全く違った対策が必要な試験の代表だと思います。圧倒的な日本語の記述量と、かたくななまでに「日本語らしい」日本語の英訳が中心であるからです。

しかしやはり、京大の問題は、一方で、英検やIELTSで高スコアをとるような人にとっても、それなりに「オモロイ」問題であることは間違いないと思いますし、日本の英語学習界の現代点と、見失ってはいけない先人の知恵を大切に保った問題であると思います。英文も設問も、難易度自体は大学入試最高峰ではありますが、一度チャレンジしてみても面白いと思います。

まとめ――知らずにいるのはもったいない

日本を代表する最高学府の英語の問題は、やっぱり英語得意の人や、英語学習に興味があるという方なら、受験生でなくても1度は取り組んでみてほしい問題です。

たぶん、どちらも、やってみて、結構思うところがたくさんある問題だと思います。肯定だろうが否定だろうが、有益だろうが、無益だろうが、いろんな問題をみて何かしらそれまで思っていなかったことを考えるきっかけにでもなればいいと思います。そして、最高学府の入試問題は、そういったきっかけになってくれそうな問題ばかりです。

入試はどうなっていくのか、日本人の英語はどうなっていくのか。おそらく、大学の先生も高校の先生も、私のようなしがない1人の学習者も、手探りで道を探している時代だからこそ、いろいろな問題に取り組んで考えを深める機会は必要なのではないでしょうか。

東大京大の英語を扱った参考書でおすすめは、次の2冊です。

鬼塚幹彦さんの『「京大」英作文のすべて」は和文英訳の本で、かなりレベルは高いですが、一般の方があらためて英語でものを表現するということを考えるときに示唆を与えてくれるはずです。(ほとんどの高校生には難しすぎます。京大受験生だとしても。)

宮崎尊先生の『東大英語総講義』は、英語という言語について考えるという意味で、これ以上の本はないぐらい、充実した本です。東大受験者だけでなく、英語ができるようになりたい高校生・大学生・社会人すべての人に一度は手に取ってもらいたい本です。

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巷の英語教員・語学人間
2019-2020年にかけて存在したサイト『やるせな語学』をリニューアルして復活させました。いつまで続くやら。最近は古英語に力を入れています。言語に関する偉大な研究財産を、実際の学習者へとつなぐ架け橋になりたいと思っています。
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