bury「埋める」の発音がベリーベリー不規則なわけ
英単語 bury を発音してみてください。
「ブリー」でも「バリー」でもありあせんね。
この単語は merry や very と韻を踏み、berry とまったく同じ発音という、まったくベリークレイジーな綴りと発音を持っており、英語学習者を絶望のどん底に沈めて、土に埋もれさせて、二度と地上の空気を吸えなくしてしまうような強烈な不規則さを持った単語です。
今回は、なぜこの単語がこんなことになってしまったのか、歴史に埋もれた文字と発音を掘り返して、その悲しい真実に迫ってみようと思います。
綴り字は不完全、言語は不完全、それを使う人間不完全な存在です。その不完全さを愛して、不規則な世界を抱きしめて、さらなる英語の綴りの世界に沈んでいきます・・・。
古英語
現代英語の bury は古英語の動詞 byrgan「埋める」に由来します。発音は「ビュルガン」みたいな感じだったと思われます。意味も古英語の時代からほとんど変わっておらず、いにしえの英語の香りを現代まで伝える生え抜きの単語です。
同じゲルマン祖語から派生した古英語の単語に beorgan「守る」という単語がありますが、こちらは現代英語では使われていないようです。どうでもいいですが、インターネットで “beorgan” と検索したら、この名前を冠したサッカーのキーパーグローブのメーカーが出てきました。古英語の勇ましい単語を宿した勇ましい名前で、どんな強烈なシュートからもゴールを beorgan してくれそうだと思いました。(適当)
ちなみにドイツ語ではこの beorgan 系統の bergen「助ける、守る」という単語が残っていて、現代でも普通に使われています。
bury「埋める」は、ドイツ語の Berg「山」(英語のiceberg「氷山」とかにも見られる)と関連してそうと考えてしまいますが、Dudenはじめ、多くの語源辞典は Berg を別語源だとしています。「埋める」と「山」関係ありそうですが、直感に引きずられては語源探求は落とし穴に落ちてしまいます。Shipleyは同語源としていますが、さて・・・。
中英語~現代語
古英語の byrgan は中世になっても健在です。中英語にはよくあることですが、様々な地域で様々な発音を身にまとって使われています。
正しいスペリングという概念がない時代は、それぞれの地域で発音を表すために様々なスペリングが残っています。bury の中英語期のスペリングは burie, birie, byry, beri など実に様々です。
この時代は綴り字が発音を反映していますので、
burie /ブリー/
birie /ビリー/
byry /ビリー/
のように発音されていたということです。
この単語の b□ry に入る幹母音は、各地域で次のように発音されていた傾向にありました。
地域 | 綴り・発音 | |
南東部(特にケント地方) | -e- ベリー | →現代語 bury の発音になる |
北部 | -i- ビリー | |
中央部やケント以外の南部地域 | -u- ブリー | →現代語 bury の綴りになる |
まず、現代語に向けて生き残った綴りは中央部に見られた bury型でした。そして、ほんとにどういうわけか、発音はケント地方のものが採用されたのです。気づいたときには綴りも地中深くがっぽり埋められていて、発音も今更変えることができないぐらい、みんなこの発音で話していたのです。
こうなってしまった理由は不明は究極のところわかりません。中世文学の代表、チョーサーが bury の綴りを主に使ったのも一因かなんて考えられていますが、はっきりとしたことはいえ何のが実際のところです。
結局は発音の謎なんて、歴史の空虚な闇の中に埋もれてしまって、現代人はその暗闇の中を懐中電灯片手にえっちらおっちらさまよい歩くしかないのです。
現代語 bury は古英語では byrian という単語で、意味もそこからほとんど変わっていない。
様々なスペリングが地域ごとに生まれる。これ自体は中世の英語では何ら珍しいことではない。
普通は発音に合わせた綴りが採用されるのだが、この語に関しては、なんの運命のいたずらか、発音と綴りが別地域から採用されたため、不規則な発音となった。
- Crystal, David (2013), SPELL IT OUT -The singular Story of English Spelling, Profile Books
- Barnhart, Robert K(1988), The Chambers Dictionary of Etymology, Chambers Publishing Limited
- DUDEN (2020), Das Herkunftswörterbuch. Etymologie der deuteschen Sprache 6. Aufgabe, Berlin