制約の多い文字 <i> と <u>【英語の綴りの規則】

imaizumisho

英単語の形成においては、どの文字もでたらめに自由に組み合わせていいわけではなく、それなりに綴り方の制約というものはあります。例えば、mloze, plrumi, uuyp, pamv なんて綴りの英単語は現実的にあり得ないわけです。

今回は、基本的だけど案外知られていない英語の綴りの話をしていきます。基本的な単語に現れている規則に気づけるようになると、英単語全体がまた違って見えてきます。

母音の中で単語内の現れ方に最も制約が多いのは、<i><u> です。この2文字は、とりわけ次の制約があります。

連続できない。
母音間に現れない。
語末に現れない。

以下では、具体的な単語を見ていく中で、規則を考えていきます。いくつかの規則が例外が登場するので、自分で具体例を考えてみてください。英語の綴りと発音を考える上で大事なのは、次の2点です。

  • いま文字の話をしているのか、の話をしているのかを区別する
  • どれを規則的とするか。そしてその場合、「どれが・どのぐらい」例外的かを理解する

綴りを勉強していく中でそのことを忘れないようにしましょう。

<i> <u> は連続できない

母音 <i, e, a, o, u> のうち、単語内で連続できるのは <ee> と <oo> だけです。他の文字は連続できません。これを規則としましょう。

そのため、see, book, room といった単語は極めて規則的です。何の違和感もありません。

では、この規則の例外を考えてみましょう。<aa>, <uu>, <ii> という文字連続が見られる単語が何か思い浮かびますか?(先を見る前に一度考えてみてください。これで思い浮かぶ人はかなりの綴りマニアだと思います。)

Q
この規則の例外は?

こういう単語は基本的に借用語(外来語)です。その中でも、借用元の言語の香りをそのまま伝える、いわば英語化していないのが特徴です。どこかエキゾチックな感じやアカデミックな響きがあるのはそのためです。

<aa>
bazaar「バザール」
ペルシャ語由来

<uu>
vacuum「真空」
ラテン語由来

<ii>
skiing「スキーをすること」
ノルウェー語由来

shiitake「しいたけ」
日本語由来

【綴りから借用元を予想しよう】

<aa>の綴りはが見られるのはアラビア語・ペルシャ語・ヘブライ語のなどに多いです。アラビア語系は、Al-で始まったり、<u>が後続しない q- の文字が許されたりと(Al-Qaeda, Qatar, Iraq)何かと特徴的です。ヨーロッパ系だとオランダ語、ドイツ語、フィンランド語などでも見られます。Haag「ハーグ」(オランダの地名)や Afrikaans「アフリカーンス語」(オランダ語と関係の深い南アフリカの言語)などにも見られます。

<uu>の連続はラテン語の語形に背景があります。vacuum という単語の vacu- はラテン語の中性名詞語幹で -um は格語尾です。そのため形態素としては vacu-um と間で切れます。それをそのまま英語として取り入れたのでこの綴りになりました。借用された16世紀当初は「空虚」という意味で「真空」を表す専門用語にその後変化します。もちろん「掃除機」の意味を獲得したのは20世紀以降です。このタイプで言うと、continuum「連続体」という単語もあります。いずれもラテン語としてはありふれたスペリングです。

<ii>はラテン語の男性複数名詞に由来することが多いです。genius のラテン語の複数形は genii です。ただ、英語で実際にこの語形を使うことは稀です。

こういうことを考えておくのは非常に重要なことです。なんとなく感覚で身につけたものを知識として整理するには具体的な例外を知っておかないといけません。

<i> <u> は母音間・語末に使えない

母音間や語末に <i>,<u>を使いたいとき、英語では代わりに<y>,<w>を使います。

ラテン語 flos, floris「花」(>フランス語 fleur)と関連する英単語に flower「花」と flourish「繁栄する」があります。flower の方は、母音間に<u>が使えないので代わりに <w> を使っているのがわかるでしょうか。w は 文字の名前を “double-U” と呼ぶぐらいですから、母音としては<u>と同じ働きをします。母音間、語末に<u>をもって来たいとき、英語では 通常<w>を使います。また、緩やかな規則ですが、<k, l, n> の文字の前でも <u> の代わりに <w> を使うことが多いです。

flourish flower 母音間でw
neutral new    語末でw
audienceawkward k の前で w
outowl l の前で w
Q
この規則の例外は?

母音間に <u> が出てくる例外は稀で、数少ない1つは queue「列」です。これは17世紀にフランス語から英語に入ってきた比較的新しい単語ですので綴りが英語化しなかったものと思われます。<q> はアラビア語系の外来語を除いて必ず <qu> のセットで現れます。<eu> の綴りは規則的に [u:] と発音します。さらに次の規則で英単語は <u> で終われないので、語尾に <-eue> の文字を足しています。

major「主要な」と mayor「市長」は元々全く同じ単語(ラテン語の maior「より大きい」)に由来する「双子」です。専門用語で二重語(doublet)と言います。mayor の方では、元のラテン語の音に近いのですが、英語では母音間に <i> の文字が使えないので <y> に置き換わっています。母音間に登場する <y> は他に loyal「忠実な」や royal「王室の」などがあります。

次に語末で <i>と<y>が交替する例です。英単語は<-i>で終われないというの制約があるので、studi, beauti, happi という綴りは許されません。しかし、何らかの語尾が後ろに付くと、この制約の適用外になります。この変化は、「派生形で -y を -i に変える」というよりは、「本来 -i だったものが、語末でなくなった結果復活する」と考えてもいいかもしれません。

studystudied
beautybeautiful
happyhappily
Q
この規則の例外は?

<i>で終わる英単語はありそうでないものです。固有名詞以外では、イタリア語由来、日本語由来がいちばんおなじみの単語が多そうです。

イタリア語由来だと、spaghetti「スパゲティ」broccoli「ブロッコリ」など。日本語由来だと sushi「すし」umami「うまみ」mottainai「もったいない」などあります。

ski は基本単語ですが、ノルウェー語由来です。同じく北欧から借用した sky が規則的だとすると、かなり珍しい綴りと発音であることがわかるでしょうか。

○ played ⇔ ×plaied をもう一度

以上のルールをもう一度まとめておきます。

連続できない。
母音間に現れない。
語末に現れない。
<i>, ,U> の綴り字の制約

play に語尾 -ed をつけると played になります。これは、語尾 -ed が付いた結果、語尾でなくなるので③の適用外になりますが、今度は②が適用されて plaied となれないからです。

また、lie, die に語尾 -ing をつけると lying, dying になります。①が適用されて liing, diing となれないからです。ちなみに、dye「染める」に -ing の語尾をつけると、dyeing となります。これは dying と区別するためです。

何気ない単語も、よく観察してみると、スペリングの規則が浮かび上がってくるのがおもしろいですね。

参考文献

大名力(2021)『英語の綴りのルール』研究社

英語の発音・綴り・フォニックスに関する推薦書

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巷の英語教員・語学人間
2019-2020年にかけて存在したサイト『やるせな語学』をリニューアルして復活させました。いつまで続くやら。最近は古英語に力を入れています。言語に関する偉大な研究財産を、実際の学習者へとつなぐ架け橋になりたいと思っています。
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