英語学習者のための「グリムの法則」練習問題

imaizumisho

今回は、「グリムの法則」を練習問題で身につけていきます。これまでの3つの記事では印欧語の音韻から、グリムの法則を英語学習に生かすというところまで、順を追って説明してきました。

印欧語の音韻について
印欧語がどのような音素を持っていたか、専門的な解説を行いました。印欧語では閉鎖音が豊富で摩擦音が少ないという事実が、グリムの法則につながっていく背景となっています。

「グリムの法則」あるいは、ゲルマン語第一次子音推移
印欧語からゲルマン語が派生していく際に起きた、大規模で体系的な子音変化であるグリムの法則の解説をしました。言語学の有名な法則を一から理解するコンセプトの記事です。

「グリムの法則」を英語学習に生かす
印欧語とゲルマン語の音韻対応を説明するグリムの法則を、英語内の異なる語派に由来する語彙の対応を説明するように最適化しました。そしてその対応関係を英語学習に取り込む思考法を紹介しました。

英語学習重視でこのページをご覧の方は、③の前回の記事をとにかくじっくりと読んで理解することをスタート地点にしてください。言語学的な背景を知りたい方は①②の方を適宜参照するとよいでしょう。

そこでこの記事では、前回紹介した「グリムの法則」の子音対応を身につけるため、いくつかの練習問題を用意しました。実際に問題を解きながら、8つの法則に慣れていくのが目標です。問題は練習1から練習6まであり、全部で46の単語のペアが出てきます。最初の2セットは前回の記事で出てきた単語です。形式はすべて表の空欄に入る単語or意味を選択肢から選ぶ方式です。

今回も、学習に役立つよう、本文の内容のプリント(pdf)を用意しています。自分で手を動かし、単語や関連語を書き込みながら学習していくことをおすすめします。

Q
【再掲】英語学習者のための「グリムの法則」子音字対応表

本来のグリムの法則が説明する音韻対応を、現代英語の子音字(音ではなく「綴り字」)の対応に筆者が改めたものです。この表の対応を身につけるのが今回の目的です。

練習1(レベル易)

表の空所を下の選択肢から埋めましょう。この問題では、前回の記事で出てきた基本単語を中心に、グリムの法則①~⑧までが順番に出てきます。覚えやすいペアになっているので、このペアを基本例として法則を覚えていくのがおすすめです。

表のX列には、ロマンス語orギリシャ語由来の単語が入り、Y列にはゲルマン語系の単語が入ります。「グリムの法則」が説明する子音対応に関する文字を太字にしています。

Xの意味の列Y単語の列
三角形
歯の
主人
実際

優しい
一角獣
第一の
first
indeed
guest
kind
bloom
tooth
horn
three

Q
練習1 解答と解説
XXの意味法則YYの意味
1. primary第一のfirst最初の
2. triangle三角形three(数詞)3
3. unicorn一角獣horn
4. dental歯のtooth
5. gentle優しいkind親切な
6. flowerbloom開花(する)
7. in fact実際indeed実際
8. host主人guest

前回の記事で出てきた単語のうち、語彙レベルが比較的低い単語です。

直感的に同語源であることが意識できるペアなので、「グリムの法則」のを覚える際にセットで頭に浮かぶようになっておくと役立ちます。

練習2(レベルやや難)

前回の記事で出てきた単語のうち、ペアのどちらかに難単語を含みます。先ほどと違い、法則番号も自分で考えてください。

Xの意味の列Yの単語の列
大火
促す、強く求める
強制送還する
(関係が)希薄な
円錐
ぼやけさせる
氷河
小数の
dust
cold
hone
ten
greedy
blaze
thin
ferry
Q
練習2 解答と解説
XXの意味法則YYの意味
9. tenuous(関係が)希薄なthin薄い
10. conflagration大火blaze
11. exhort促す、強く求めるgreedy貪欲な
12. deport強制送還するferryフェリー
13. decimal小数のten(数詞)10
14. obfuscateぼやけさせるdustほこり
15. glacier氷河cold冷たい
16. cone円錐hone研ぐ、とがらせる

前回の記事で出てきた単語のうち、どちらかに高難度の単語を含みます。

Y列のゲルマン語系の単語が基本語であることが多いですが、そうでない場合は、X列の単語からYの意味を想像することもできます。

10.の blaze という単語を知らない場合は、対応する flame という単語とつなげて意味を考えたりするのです。

練習3(レベル易)

前回の記事で出てきていない単語のペアです。まずはつながりを意識しやすい基本語から。

Xの意味の列Yの単語の列
100年
五角形
壊れやすい
穀物
二重の
輸送する
through
hundred
twofold
break
five
corn

Q
練習3 解答と解説
Xの単語Xの意味法則Yの単語Yの意味
17. pentagon五角形five(数詞)5
18. transport輸送するthroughを通して
19. century100年hundred(数詞)100
20. double二重のtwofold二倍の
21. grain穀物cornトウモロコシ
22. fragile壊れやすいbreak壊れる

17. pentagon と five は普通に見たり聞いたりすると何の関係もないように見えますが、グリムの法則①《p-f関係》で同族語だとわかります。
少しマニアックな知識ですが、「5」はギリシャ語で pente で、ゲルマン語のドイツ語でも fünf と <n> が現れますが、英語では見られません。英語ではしばし、他言語に見られる <n> が消失します。他のゲルマン語にはない、英語ならではの特徴とされます。

18. ラテン語の接頭辞 trans- は「超えて, 向こう側へ」を意味します。英語の through と対応するのがわかります。

19. cent-「100」は英語の hundred に対応します。<c> の発音は現代語では /s/ ですが、ラテン語では常に /k/ でした。文字からゲルマン語の <h> とのつながりを感じることです。centimeter「100分の1メートル」, cent「100分の1ドル」, centipede「ムカデ」<centi 100 pede[=foot:法則①] なども仲間です。

20. ラテン語の「2」は duo です。duet「デュエット」, doubt「疑う<2つのものでどちらか考える」なども同族語です。

21. corn はアメリカ英語では「トウモロコシ」を指しますが、イギリスでは「穀物」全般を意味することもあります。ロマンス語系の grain と意味も重なり合うわけです。<r> はグリムの法則と関係ありませんが、ここで gra – cor に見られるように、「r と母音はよく入れ替わる」と覚えておいてください。見た目が異なる単語の関連性を見いだすときに役立つことがあります。

22. fragile と break は語頭の文字は法則⑥《f-b関係》で対応し、語幹末の文字は法則⑤《g-k関係》で対応しています。fragile の仲間は、fracture「骨折」, fragment「断片」, infraction「違反」, frail「虚弱な」など、重要なものが多くあります。

練習4(レベル中)

Xの意味の列Yの単語の列Yの意味の列
イヌ科の, 犬歯
裂け目
灼熱の
居住地、住居
水平面
グラフ、図表
森(<戸の外)
展示する
carve
hound
bite
timber
door
field
give
thirst
ドア
平地、畑
与える
(喉の)乾き
彫る、刻む
猟犬

Q
練習4 解答と解説
Xの単語Xの意味法則Yの単語Yの意味
23. torrid灼熱のthirst(喉の)乾き
24. forest森(<戸の外)doorドア
25. plane水平面field平地
26. graphグラフ、図表carve彫る、刻む
27. domicile居住地、住居timber木材(家の材料)
28. fissure裂け目bite噛む
29. canineイヌ科の, 犬歯hound猟犬
30. exhibit展示するgive与える

23. torrid「灼熱の」は比喩的に「(恋愛感情などが)熱烈な」の意味にもなります。古英語由来の thirst も「喉の乾き」以外に、「(forに対する)渇望、強い欲望」という比喩的な意味があります。

24. forest と door は同族語で、forest は中世の感覚では「戸の外」という場所でした。城壁で囲った外は狩猟に出かける場所だったと考えられます。同じく、foreign も「今いる場所の外の」ということで、door と同族語なのです。

25.plane「数学などの水平面」で、水平に翼を広げる様子から「飛行機」の意味が生まれました。plain「明白な、わかりやすい」, palm「手のひら」もこれらの仲間です。

26.多くの古語で「書く」は「刻む」といった単語から生まれています。ギリシャ語系で graph, gram は「書く」の意味を持っていて、ゲルマン語系の carve「彫る」と対応するのです。古代に紙とペンはないので、字を書くという行為は、木や粘土板に文字を刻みつけることであったからです。余談ですが、write もドイツ語の reißen「引き裂く」と同族語で、刻みつけるイメージから来ています。

27.ラテン語で domus は「家」です。dominusは「家の主」ということで、「主人」となり、キリスト教では「神」の意味も獲得しました。dominant「支配的な」, dominate「支配する」, domain「領域<支配が及ぶ地域」などです。dome「ドーム」もギリシャ語の「家」から来ています。ゲルマン語系の timber とは「家の材料」ということでかすかにつながります。

28. fissure「裂け目」は、歯形が入ったようなイメージで bite と結びつけます。fission「分裂」(⇔fusion「融合」)もこの仲間です。「少し」の意味の bit も「一噛み(一口)」ということで、bite の仲間です。bait「餌」も同族語です。

29. 古英語では、「犬」はもっぱら hound の古形を使っていましたが、語源不詳の dog に取って代わられ、現在のhound は「猟犬」と意味を縮めています。ドイツ語では「犬」は今でも Hund といい、ドイツ語由来の Dachshund「ダックスフント」に現れます。これらがグリムの法則によりラテン語の canine「犬の、犬歯」とつながります。

30.ラテン語では habere「持つ」という動詞がありますが、グリムの法則から、これは英語の have ではなく、give と同族語だとわかります。ロマンス語系で habit, able などを持つ単語は、この habere に関連するものがほとんどです。exhibit「展示する」は、「外に持つ」ぐらいの発想で考えます。

練習5(レベル難)

Xの意味の列Yの単語の列Yの意味の列
接着剤
園芸
固定する
補充する
推論・帰納
侵入する
火葬場
化石
embed
clay
dike
garden
hearth
refill
thrust
tie

埋め込む
結びつける
堤防、土手
再び満たす
強く押す
粘土
Q
練習5 解答と解説
Xの単語Xの意味法則Yの単語Yの意味
31. horticulture園芸(学)garden
32. glue接着剤clay粘土
33. fossil化石embed埋め込む
34. crematory火葬場hearth暖炉の前
35. intrude侵入するthrust強く押す
36. deduction推論・演繹tie結びつける
37. replenish補充するrefill再び満たす
38. fix固定するdike堤防、土手

31.ラテン語で hort- は「庭」です。cultureは「耕すもの」といった原義があります。horticulture「園芸学」は学問的な文脈で使われるフォーマルな語です。ロマンス語系だと、cohort「一味;共犯者」も同族語です。同じ庭にいる同志といったところでしょうか。法則⑧では英語内で <g>-<y> の対応があるので、garden と yard はどちらも本来は同じ単語でした。後の時代の音韻変化でグリムの法則が見えなくなりましたが、orchard「果樹園」(<古英語 ortgearld)も仲間です。

32. glue「接着剤」はロマンス語系で、対応するゲルマン語は clay「粘土」です。どちらも粘性のある物質で、ものの固着に使われます。ゲルマン語系の clay の方が加工されていない素朴な響きを残している点もポイントです。

33. fossil「化石」は土に埋まっているものということで、embed「埋め込む」と対応します。どちらも印欧語幹 *bhedh-「掘る」に由来します。「掘る」動作は、「溝」や死者を横たえる「寝台」へとつながります。fosse「城の堀; 溝」なども同族語です。

34.cremate「(遺体を)火葬する」, crematory「火葬場」, carbon「炭」, ceramic「陶磁器の、窯業の」はすべて「焼く」というイメージを持つ同族語です。対応するゲルマン語系の hearth「炉床、暖炉の前」は比喩的に「家庭(生活)」の意味で使われることもあります。

35.intrude「侵入する」は、-trude に threat「脅威」や thrust「ぐいと押す、突き刺す」のつながりを感じることです。何かが押し入ってくる感じが共有されています。ロマンス語系の関連語は protrude「突き出る」, obtrusive「押しつけがましい、出しゃばる」などで、どちらも thrust の動作がイメージしやすいです。

36.deduction「演繹」とは、個々の事例から抽象的な一般論を導く考え方です(deから duct導く, 引っ張っていく)。具体的な事柄を結びつけて(tie)テーゼを導く方向の考えです。duct, duce といった語幹をもつロマンス語系の単語は無数にあるので、思いつくものをまとめて整理しておくことをおすすめします。ゲルマン語系では、tie は team, tug「引っ張る」, taut「ピンと張った」などです。

37.フランス語系の replenish と英語本来語の refill はどちらも意味も似ていて共通点がイメージしやすいペアです。ロマンス語系 plenty「満たされた量」, ギリシャ語形 plethora「多量」 などに fill, full のニュアンスを感じ取りましょう。接頭辞がつく関連語が無数にあるので、まとめて整理しておくことをおすすめします。

38.fix「固定する」は、本来語で dike「堤防、土手<水の範囲を固定するもの」とつながります。ditch「溝」もゲルマン語系の同族語です。

練習6(レベル難)

かなり抽象的に意味を考えて結びつける必要があるペアです。文字の対応からYの単語は埋められると思いますが、なぜそれがXとペアになるのか、やや結びつけるのが難しい単語たちです。

※Gk: ギリシャ語由来
 L: ラテン語由来

Xの意味の列Yの単語の列Yの意味の列
トラウマ
音響の
集団に特有の
欠乏
遺産
より下の
熱狂
隔離する
bristle
cram
fanatic(L)
few
go
hear
thresh
tide
行く
激しくたたく
狂信的な
詰め込む
聞こえる
潮; 時流
少ない
~の下に
Q
練習6 解答と解説
Xの単語Xの意味法則Yの単語Yの意味
39. heritage遺産go行く
40. paucity欠乏few少ない
41. traumaトラウマthresh激しくたたく
42. endemic集団に特有のtide潮; 時流
43. acoustic音響のhear聞こえる
44. segregate隔離するcram詰め込む
45. enthusiasm(Gk)熱狂fanatic(L)狂信的な
46. inferiorより下のunder~の下

39. go は基本語ですが、「歩み去ったもの、行ってしまったもの」という意味で、h- の文字を持つ heritage「遺産」などとつながります。heir「相続人」, hereditary「遺伝の」なども仲間です。ゲルマ語形では、gait「歩き方」なども同族語です。

40.paucity「欠乏」, poor, poverty はすべて同族語で、ゲルマン語の few に対応します。また、「少ない、小さい」は「子ども」に意味を広げるので、puerile「(非難して)子どもっぽい」, pusillanimous「気の弱い<pusil 小さい anima 動物」などともつながります。子どもの「教育」ということで、ギリシャ語形の pedagogy「教育学」も同族語です。

41.thresh「強く打つ、たたく」のバリエーションで thrash「(鞭や棒で)たたく、打つ」があります。「傷」を意味するギリシャ語に由来する trauma はこの仲間です。このグループはかなり意味に広がりがある印欧語幹 *terə-「こする、ひねる、回す」に由来します。究極的には turn や throw も同族語なのですが、風呂敷を広げすぎるとわかりにくくなるので、一部の紹介にとどめておきます。

42.英語本来語の tide「潮の満ち引き」は古英語では「時間」を表す一般的な語で、印欧語の原義は「区切る」でした。「潮流、時間」とは、時を区切るものという発想です。ギリシャ語では、人々の住む区画ということで、demos「デーモス」と呼ばれました。そこから demo- は「人々の」という語幹として現在は広く見られます。endemic「ある集団に特有の」, democracy「民主主義」, demography「人口統計学」など、やや学術的な響きの単語に多く見られます。

44.ギリシャ語形の acoustic と hear はわかりやすいつながりです。

45.enthusiasm の thu の部分はギリシャ語で「神」を意味する単語に由来します。神を信じる熱狂はラテン語系では fanatic「熱狂的な」につながります。fan「ファン」はこの単語の略語です。

46.形態素の先頭ではないですが、under「下」とラテン語の inferior「より下の、劣った」は同じ印欧語幹に由来します。infra, infer はラテン語で「下の」のを意味します(反意語はsuper)。イタリア語由来のinferno「地獄」も「下の場所」ということで関連語です。形容詞 infernal「地獄のような」もセットで覚えておくと良いでしょう。

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巷の英語教員・語学人間
2018-2020年にかけて存在したサイト『やるせな語学』をリニューアルして復活させました。いつまで続くやら。最近は古英語に力を入れています。言語に関する偉大な研究財産を、実際の学習者へとつなぐ架け橋になりたいと思っています。
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