road を「ロード」と読みたくて。【日英対照で音声学②】
road のような単語を発音してもらうと、その人の英語の発音に対する姿勢といったものが見て取れると私は思っています。
なぜか。
日本語と英語で、発音が似てるけど違うものの代表だからです。英語の road はアメリカ英語では、[roʊd] と発音され「ロウド」のように聞こえます。これが日本語話者にはすこぶる難しいのです。
その原因を音声学とフォニックス(発音と綴りの関係)の視点から考えましょう。
英語の [oʊ]
そもそも英語では、文字の名前からして <O/o> は [oʊ] です。これを二重母音と言います。二重母音はそれだけで一つの音素です。音素とは言語の最小単位ですので、これはこれ以上分けられない単位です。
英語の二重母音には、[ai],[aʊ],[ɛi],[oʊ], [ɔi] などがあります。
英語の発音に上達したいなら、road は「ロード」のように母音を伸ばさす、二重母音で読みましょうと英語の先生は指導します。
日本語の「オウ」
日本語は母音連続
日本語の「オウ」という音の連続を考えてみましょう。
次の例です。
形態素の切れ目ががオ-ウの間にあるとき。
例: 「小唄」(小+唄) , 「子牛」(小+牛)
和語の一部の語。
「酔う」「請う」「追う」など
これらには、「オウ」という音が含まれます。しかし日本語は英語と違って、「請う」は こ[ko]う[u]という二つの文字が等価で並んでいる母音連続です。母音部分は、[o]と[u]の二つの音素から成ります。
日本語の「オウ」は少ない?
上記で挙げたもの以外では、日本語に「オウ」という母音連続はほとんどみられません。たとえローマ字表記で ou が連続しても、実際の発音は違うからです。「公園」「お父さん」「ようこそ」といった単語を日本語話者はどのように発音しているでしょうか。
こうえん
おとうさん
ようこそ
↓
kouen→ [koːen]
otousan→[otoːsan]
youkoso→[joːkoso]
※ [ː] は長音記号で、前の音を長く発音する。
日本語では、ローマ字で書いたとき ou という連続があると、基本的に [oː](=オー)という発音になります。普段日本語を話しているときにはあまり意識しないかもしれませんが、日本語において、「オウ」のような音を発音する機会は、実際のところ少ないのです。
なぜ難しいのか
二重母音と母音連続は違う
日本語の母音連続は、二つの音節を形成します。「酔う」という言葉を歌うなら、「よ~~~う~~」のように「オ」と「ウ」を対等に扱うことができます。
一方、英語の [oʊ] は二重母音で、前半の o の部分をはっきりとした口の形で発音して、後半の音は脱力気味になります。そのため、「オぅ」や、極端な話、「オぁ」「オォ」のように聞こえてもあまり問題ありません。二重母音は一つの音素で分解不可なので、goal をアナウンスする場面でも、GOOOOOOOOOOOOOOAL! のように、あくまで一音節の単語を伸ばして発音するしかありません。
カタカナ語と綴り字の問題
また、英語の発音の難しさは、これまで述べた音声の問題に加え、綴り字の問題もあります。
英語教員としての経験上、英語の二重母音は、次の順で日本語話者には難易度が上がります。
[ai] < [aʊ][ɛi] < [oʊ]
like [ai]
out [aʊ]
make [ɛi]
road [oʊ]
この原因は、カタカナ語の存在と、英語の綴り字の問題に起因すると思われます。
like に含まれる [ai] は日本語話者にとってそれほど困難はありません。二重母音 [ai] は日本語で「ライク」という母音連続でもそれなりに近い音を表せますし、日本語で「アイ」という母音連続は一般的だからです。「愛」「会いに」「枚」「ライフ」など。
out に見られる[aʊ] は発音上は問題ありません。「アウト」というカタカナでも近い音は表せます。ただし、<ou> という綴りを [aʊ] と発音するのはローマ字の読み方と異なるので、慣れていない学習者は found を「フォウンド」のように誤って読む傾向があります。語中の <ou> という綴りは [aʊ] となることを念頭に置いておくとよいです。
make に含まれる [ɛi] は、カタカナ語が英語とずれる場合があります。「メイク」が「メーク」のように英語の音から乖離すると、なかなか日本語話者は二重母音を意識することができません。また、training は「トレーニング」で train は「トレイン」(「トレーン」ではなく)と表記するので、[ɛi] のカタカナ語化は一貫していません。さらに、日本語の発音でも「エイ」の連続は通常「エー」のように発音されることもあります(例「経営」[keːeː])。こういったことを踏まえて、英語学習者としては、ace「エース」、race「レース」のような英語の二重母音を、日本語は長音のように発音しないよう意識することが重要です。
このように考えていくと、road を [oʊ] と発音するのが一番難しいのがわかります。日本語にそもそも「オウ」英語に近い音が稀で、カタカナ語はもれなく「オー」という表記になります。つまり、カタカナ語は英語に近い音を表しません。そういうわけで、日本語は、auto「オート」(英語では [ɔː])と road「ロード」(英語では[oʊ])の母音を区別できないのです。
また、綴りにおいても困難があります。[oʊ] という発音になるとき、英語では、主に <o>, <ou>, <ow>, <oa> の綴りで現れます。私の経験上、soul や low のように <ou>, <ow> の綴りで現れるときは、日本語話者でも [oʊ] という音を比較的意識しやすいのですが、go や road のように <o>,<oa> で現れると正しい発音ができない場面が多くなります。
まとめ
ややまとまりのない話になりましたが、今回のポイントは以下です。
英語の二重母音と日本語の母音連続は異なる。
日本語には「オウ」という母音連続が稀で、英語の二重母音 [oʊ] はカタカナ語では「オー」のような伸ばした音になる。
例: road「ロード」
英語の [oʊ] という発音には、<ou>, <ow>といったローマ字の感覚に近い綴りもあれば、<o>, <oa> といったローマ字からイメージしにくい綴りもある。
