あれも分詞、これも分詞

imaizumisho

最近、本業の方で中学生に分詞を教える機会がありました。分詞とは、英語における動詞の語形変化の一つと扱われます。いわば、動詞の使い方の一つなわけです。

英語の語彙を見渡してみると、あれもこれも分詞に由来するということが実はたくさんあります。今回は英語の語彙学習にちょっとだけ役立つような、分詞の話です。

English Participles

-ing, -ed は英語の分詞

英語の分詞の作り方といえば、現在分詞が -ing で過去分詞が -ed です。ラテン語やらフランス語やらから動詞を借り入れた後、英語のルールで分詞化して、それが形容詞として語彙化することがあります。

例えば、ラテン語由来の interest は、元は「関心事、利害関係」という名詞で15世紀に英語に現れましたが、17世紀前半には「関心を持たせる」という動詞用法で現れ始めます。英語の動詞として定着したこの語は、interested, interesting というように、英語のルールで分詞化します。これらが定着すると、次第に形容詞として振る舞うようになり、辞書にも形容詞として登録されます。interested や interesting は今では立派な形容詞ですので、very で修飾できたり、more/most interesting のように比較級・最上級をつくることができます。(ただの分詞ではこれができません。)

こうした単語には、interested の他に、surprising, amazing, scared などの感情を表すものから during, including など、英語内で前置詞のように使われる機能語まで様々です。

この手の単語は、外国語の動詞を英語に取り入れて、その後英語のルールで派生させている点がポイントです。輸入食材を自国の調理法でアレンジしたようなものです。

英単語として私が好きなのは、unexpectedly という単語です。expect というラテン語っぽさがあふれた単語に、un-, -ed, -ly という英語本来の接辞をあれこれとつけて生み出されています。輸入素材の味を生かしながら英語のルールで扱うためのアレンジをあれこれと施した感じがなんとも言えません。

French Past Participles

-ee はフランス語の過去分詞

英語はフランス語から大量の語彙を借用しています。interested は英語本来の語尾を付け加えた例でしたが、フランス語の単語にフランス語の語尾を付け加えた例もあります。いわば、食材も調理法も外国製の単語です。

フランス語の規則動詞は -é という過去分詞の語尾を持つのですが、英語化されると -ee で現れます。これは過去分詞に由来するので、他動詞に付いて「~される人」を表すのが一般的です。しばし -er で表されるの行為者「~する人」と対になります。

employ 雇う
employer 雇う人
⇔employee 雇われる人

interview インタビューする
interviewer 聞き手
⇔interviewee 答える人

よく使う語だと、他に guarantee, committee などがあります。これらは古いものだと16世紀から、新しいものは19世紀に生まれた比較的新しい単語です。英語の -ed ではなくフランス語っぽい -ee を使う単語は、法律関係で使われるようなやや高尚な単語に多く見られました。

フランス語のアクセント規則により、これらの単語は語尾の -ee に強勢を置きます。ただし、committee は例外的に後ろから2音節めに強勢です。

Q
refugee は完成品の輸入

フランス語由来の英語動詞に英語内でフランス語由来の語尾をつけた上記の例とは違い、refugee「難民」はフランス語の過去分詞由来の名詞 refugié を借用しています。いわば、調理も味付けも済んだ完成品をそのまま輸入した形です。

refugee の元になったフランス語は「避難する、逃れる」という意味の自動詞でしたので、過去分詞は「~された」という受動ではなく、「~してしまった」という完了の意味になります。fallen leaves(落ち葉)の fallen と同じです。

こうした例があるからかはわかりませんが、英語内でも -ee の語尾は、次第に「~された」だけでなく、単に「~する人」のような意味も表すようになってきています。また、フランス語由来の単語だけでなく、英語本来語にも -ee の語尾を付け加える傾向も生じています。
(e.g. standee 立ち見客)

Q
due, view もフランス語の過去分詞から

フランス語には -er で終わる規則動詞だけでなく、多種多様な不規則動詞があります。不規則動詞の過去分詞は、規則的な -é (英語では -ee) 以外の語尾をもちます。

英単語 due はフランス語の動詞 devoir「義務を負っている」の過去分詞に由来します。そのため、この単語の「期限が迫って」や「支払われるべき」といった意味は、本来のフランス語の過去分詞の意味を比較的よくとどめていることがわかります。

また、view は英語の see に相当するようなフランス語の動詞 voir (の古形) の過去分詞(の女性形)に由来します。これが次第に抽象名詞化し「見ること」全般を表すようになりました。フランス語化する前のラテン語だと原形が videre です(cf. video)。また、visa「ビザ」はこの videre の、ラテン語での過去分詞(の中性複数形)に由来します。

そんなことを言い出すと、data はラテン語の動詞 dare「与える」の過去分詞だし…なんて話が無限に続きそうなのでこの辺でやめておきます。

French and Latin Present Participles

-ant, -ent は現在分詞

今度は現在分詞の話です。ラテン語の規則動詞は、第1変化から第4変化までの4種類がありました。第1変化の動詞は -ant-、それ以外の変化は -ent- という現在分詞形を持ちます。

英語はその語形をいろいろと借用したので、英単語で -ant, -ent の語尾を持っていると、現在分詞的な「している」という形容詞、あるいはそれが名詞化した「~している人・もの」ぐらいの意味になってきます。これを知っておくだけでも、英単語の学習において役立つ場面がたくさんあります。

student は、すごく簡単に言うと、study(の元の単語)の現在分詞形に由来するため、勉強している人→「学生」というわけです。(原義は「熱心に取り組む人」)

英語を学習する身からすると、important のように -ant になるのか、dependent のように -ent になるのか、どっちなのか迷うことがあります。これに関しては、残念ながら、規則はなく、覚えるしかありません。

なぜ覚えるしかないのか。これにはやるせなき英語の歴史が関係しています。以下にその理由を列挙しますが、多分途中で読むのをやめたくなると思います。

  • ラテン語において、ある動詞が -ant-語尾を持つ第1変化か、-ent-語尾を持つ第2~4変化になるかは、覚えるしかないものだった。
    (e.g. ラテン語 importantem <第1変化 importare; dependentem<第3変化 dependere)
  • ラテン語の現在分詞 -ent に由来する語がラテン語の時点で形容詞になっていて、それをフランス語に引き継ぐと、フランス語では -ent の語尾を保った形容詞となった。
  • ラテン語の動詞に付ける現在分詞語尾 -ant, -ent は、フランス語の動詞の現在分詞化の際は、すべて -ant に一本化された。
  • しかし、フランス語の新ルールで -ant をつけた現在分詞が形容詞化したとき、元のラテン語が -ent だった場合は、わざわざ元のラテン語に合わせて -ent と綴り直すことがあった。
  • 英語はフランス語からフランス語化した単語を借用することもあれば、元のラテン語から直接単語を借用することもあった。
  • 英語は、フランス語で -ant 語尾になっている単語を借用した後、ルネサンス期のラテン語万歳運動によって、元のラテン語が -ent の語尾だった場合、わざわざ -ent に綴り直したり、しなかったりした。
    (e.g. attendant ⇔ superintendent)
Q
イタリア語では -ando, -endo

ラテン語やフランス語の -ant, -ent は、イタリア語では -ando, -endo で対応してきます。音楽用語でおなじみの crescendo や diminuendo などは、英語風に言うと increasing(ly), diminishing(ly) といったところでしょうか。

Latin Past Participles

-ate はラテン語の過去分詞(だった)

ラテン語の第一変化動詞は、-atus という過去分詞の語尾を持ちます。これが英語化すると、-ate となります。

過去分詞に由来するので、本来は interested と同様の分詞形容詞として運用されていました。

*The land was desolate by the war.
戦争で大地が荒らされた。(desolate は古い形容詞)

しかし、これが過去分詞ではなく、desolate で動詞だと分析されるようになります。そうすると、ここからさらに desolated という英語のルールで分詞語尾を付けないといけない、ということになります。

The land was desolated by the war.
(desolate は動詞として認識され、その過去分詞 desolated 過去分詞が認められる。もとの分詞形容詞 desolate は廃用になる。)

こうして、-ate は現代英語において、ラテン語っぽい香りがする語幹に付け加え、英語動詞を生み出す強力な装置として機能するようになります。過去分詞の語尾が、動詞原形語尾に昇格(?)を果たしたわけです。もはや過去分詞的な「~された」の意味は忘れ去られたといってもいいでしょう。

また、本来は過去分詞の語尾であるため、名詞・形容詞の語尾としても -ate は大活躍します。本当に、-ate はラテン語系の単語を英語に持ち込む際に、万能的な力を発揮しているわけです。

『英検準1級出る順パス単』5訂版 (旺文社)に収録されているA~Eで始まる単語のうち -ate 語尾をもつもの

動詞
accommodate, accumulate, alternate, associate, calculate, complicate, contaminate, contemplate, cooperate, dedicate, deflate, delegate, demonstrate, designate, deteriorate, dictate. dominate, donate, eliminate, estimate, evacuate, evaluate

形容詞
appropriate, deliberate(ly), desperate, elaborate

名詞
candidate, certificate

Q
affectionate はラテン語かぶれ

もともと、フランス語の過去分詞 affectionné (愛情の込められた) に由来する英単語があったのですが、近代英語はそれをさらに語源に遡ってラテン語の -ate に付け替えて affectionate としました。ルネサンス期は何かとラテン語万歳という気風があったため、フランス語化した語形をさらに遡ってラテン語に戻すということがあちこちで行われたのです。これは当時の書き手であった知識層の人々の独断や偏見に依るところも大きく、英語の綴りをさらにヘンテコな感じにしてしまった要因の一つでもあります。詳しくは次の記事でわかりやすく解説しています。

語源的綴り字:doubt の <b> は何か” /></div><div class=語源的綴り字:doubt の <b> は何か
Participles, Everywhere

あれも分詞、これも分詞

本来分詞だったものが、形容詞としてだけでなく、名詞や動詞として活躍する場面があることがたくさんあることがわかったと思います。

ラテン語だけでなく、英語本来語も分詞由来の単語はあります。やや見慣れない単語かもしれませんが、次の2語がオモシロいです。

numb「(感覚が)麻痺した」
古英語 niman「取る」の過去分詞 numen より。最後の b は climb などに見られるかつて発音された <b> を、類推による働きで付け加えた。「取る」の過去分詞なので、「感覚が奪われた」ぐらいの原義となる。現代英語では動詞「感覚を奪う」という動詞としても使われるので、それが過去分詞化した numbed という形容詞が新たに生まれたりしている。これは前節の desolate[分詞形容詞] → desolate[動詞] → desolated [分詞] と同じ流れ。

uncouth「粗野な」
古英語 cunnan「知っている」の過去分詞 couth に由来する。否定の un- が付いているので、「知られていない」から、16世紀頃、「作法を知らない、粗野な」という意味が生じた。原形の cunnan は現代語では助動詞 can「できる」になったが、古英語ではまだ「知っている」という意味の本動詞として使われることが多く、分詞形もあった。現在分詞は cunning「狡猾な」になり、過去分詞としては couth がほぼ廃用となっているが、否定接辞のついた uncouth は現在も使われる。

他にオモシロいものだと、時の区分を表す future「未来」、present「現在」、 past「過去」という単語はすべてラテン語の分詞に由来します。future は動詞 esse [=to be] の未来分詞に由来します。present も同じ原形 esse に、「前に」を意味する prae を付けた動詞 praeesse の現在分詞(-ent語尾パターン)で、「目の前に存在する時間」ということです。この語には「出席した」や「プレゼントする」という複数の意味がありますが、すべて「目の前に存在する(させる)」という意味が根底にあることがポイントです。past は passed の異綴りなので、「過ぎ去った時」という過去分詞であることがわかります。

そんなこんなで、英語の語彙にはあちらこちらで分詞に由来する語が見られます。

いやはや、あれも分詞、これも分詞というわけです。

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巷の英語教員・語学人間
2018-2020年にかけて存在したサイト『やるせな語学』をリニューアルして復活させました。いつまで続くやら。最近は古英語に力を入れています。言語に関する偉大な研究財産を、実際の学習者へとつなぐ架け橋になりたいと思っています。
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