英語とドイツ語の子音対応まとめ【フリーレンが生まれるまで】

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英語とドイツ語は同じく西ゲルマン語派に属するため、多くの語彙を共有しています。例えば、英語の finger はドイツ語でも Finger となり、綴りも発音も意味もほとんど同じです。しかし、ドイツ語を学習していると、「なんか英語とは違う」と思うことが多いのではないでしょうか。その背景には各言語が経験した音韻変化があります。今回は、先史時代から近代期に至るまでの音韻変化をまとめて提示します。「なぜ英語の water は ドイツ語で Wasser になるのか」などなどがわかると、ドイツ語学習がちょっとだけオモシロくなること間違いなしです。

この記事では私が勝手にやっているドイツ語推進運動の一環です。今話題の『葬送のフリーレン』に登場する名前のドイツ語を青字で示し、カタカナ表記を付しています。

特に断りのないアルファベット表記は現代語の「綴り字」を表します。音素は//、 発音は[ ]で表します。

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概要

英語とドイツ語を特徴づける子音対応をまずはまとめて提示します。太字は対応子音で、下線はその変化が起きた方です。

英語とドイツ語両方に起きたもの】
❶ロータシズム
 freeze – frieren フリーレン
 iron – Eisen アイゼン

【ドイツ語のみに起きたもの
❷第二次子音推移
 apple – Apfel
 sharpsharf シャルフ
 ten – zehn
 water – Wasser
 milk – milch
 good – gut
❸閉鎖音化

 think – denken デンケン
 evil – übel ユーベル
❹シュ化

 stark – stark [ʃt] シュタルク
 swim – schwimmen
❺有声化

 series – Serie [z] ゼーリエ
 whirl – Wirbel [v] ヴィアベル
❻語末無声化

 landLand [t] ラント

英語のみに起きたもの】
❼口蓋化
 chest – Kasten
 day – Tag
❽子音脱落
 say – sagen
 knee – Knie
 might – Macht マハト

ドイツ語と英語を比べると、子音に関して、実はドイツ語の方がゲルマン祖語から大きく変化しています。それは主に、❷第二次子音推移(高地ドイツ語子音推移)と呼ばれる大規模な変化に起因します。その他では、❹シュ化❺有声化により、「シュ」「ザズゼゾ」「ヴ」みたいな音がドイツ語にはやたら多く現れます。
そのせいか、やたらイカツい言語だと思われがちな気も…

一方で英語は、子音に関してはゲルマン祖語の音を比較的堅実に現代まで受け継いでいます。英語の大きな特徴は古英語期以前の❼口蓋化と、近代期の❽子音脱落による「書くけど読まない文字」の台頭です。

以下では、英語とドイツ語を特徴づけることになった、これらの対応について見ていきます。

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両言語でおきたもの

両方に起きたものは少なく、今回挙げるのは❶ロータシズムという音変化のみです。

❶ロータシズム(西ゲルマン語期)

freeze – frieren 「凍る」
iron – Eisen 「鉄」

Q
解説

これは、ゲルマン語の *z が *r に変化したもので、西ゲルマン語や北ゲルマン語で個別的に広く見られます。詳しくは次の記事で解説しています。

ロータシズム(R音化)について【ゲルマン語の音の変化】
ロータシズム(R音化)について【ゲルマン語の音の変化】

英語の freeze とドイツ語の frieren(フリーレン) では、英語は /z/ に対してドイツ語ではロータシズムを経た語形が現れます。一方、「鉄」の単語では英語の iron の方がドイツ語 Eisen(アイゼン) に対してロータシズムを示しています。

現代英語 freeze の活用は、古英語 freosan – freas/fruron – froren のように、<s>とロータシズムを経た<r>が両方出てきていました。古語では過去形が単数主語と複数主語で2つあることに注意です。英語は<s>型の freeze-froze-frozen の方を一般化させ、ドイツ語は<r>型の frieren-fror-gefroren を一般化させました。

現代英語で過去形を単数主語・複数主語で使い分ける唯一の動詞はbe動詞ですが、そこにもやはり was/were の対応が現れています。

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ドイツ語側でおきたもの

❷第二次子音推移(古高ドイツ語期以前)

英語ドイツ語
(ⅰ) p > pfapple
plant
Apfel
Pflanze
(ⅱ) p > fsharp
leap
sharf
laufen
(ⅲ) t > zten
set
zehn
setzen
(ⅳ) t > ss, water
eat
Wasser
essen
(ⅴ) k > chcake
make
Kuchen
machen
(ⅵ) d > tdoor
daughter
Tor
Tochter
Q
解説

現代の標準ドイツ語に連なる最も大きな子音変化です。詳しくは次の記事で解説しています。

第二次子音推移(高地ドイツ語子音推移)を理解する。【ゲルマン語からドイツ語へ】
第二次子音推移(高地ドイツ語子音推移)を理解する。【ゲルマン語からドイツ語へ】

簡単に言うと、ゲルマン祖語の無声摩擦音 *p, *t, *k が古高ドイツ語に至るまでに破擦音(pf, z, kch)、あるいは摩擦音(f, s, ch)になりました。この変化さえなければ、ドイツ語と英語・オランダ語はもっと似たような響きをもった言語だったかもしれません。逆に言うと、この変化こそがドイツ語のドイツ語らしさを大きく決定しているとも言えます。

ドイツ語 scharf(シャルフ)は英語 sharp に見られる語末子音 p が第二次子音推移を経験しています。laufen(ラオフェン)はドイツ語では「走る」の意味ですが、英語の対応語 leap は「飛び跳ねる」という意味になっています。
ドイツ語と英語のこれら「偽りの友」については次回の記事で解説します。

❸閉鎖音化(古高ドイツ語期以前)

英語ドイツ語
(ⅰ) th > dthink
that
denken
dass
(ⅱ) f/v > blife
evil
leib
übel
Q
解説

英語に <th> で残るゲルマン祖語の歯摩擦音/θ, ð/はドイツ語ではいずれも閉鎖音/d/になりました。ドイツ語を習い始めて真っ先に気づく英語との対応だと思います。ドイツ語 denken(デンケン)は英語の think に対応するわけです。

唇を使う摩擦音/f, v/もドイツ語では閉鎖音 b になりがちです。ドイツ語 übel(ユーベル)は「悪い」を表す一般的な単語で、英語の evil も本来はそうだったのですが、現代英語では「邪悪な」といった意味になっています。

ここで見た②第二次子音推移③閉鎖音化こそが、古高ドイツ語と他のゲルマン語を大きく分けた1000年以上前の子音変化です。これらを知るだけでも「なんとなくドイツ語っぽい」という響きの正体がつかめます。

❹シュ化(中高~初期近代ドイツ語期)

英語ドイツ語
st [st] > st [ʃt]stark [st]stark [ʃt]
sp [sp] > sp [ʃp]spin [sp]spinnen [ʃp]
sl > schlsleepschlafen [ʃl]
sm > schmsmallschmal [ʃm]
sn > schnsnowSchnee [ʃn]
sw > schwswimschwimmen [ʃv]
Q
解説

ドイツ語では語頭で、子音の前の s が[ʃ] の発音になります。決まった名称はないので私は便宜上「シュ化」と呼んでいます。t と p の前では綴り <s> のままで [ʃ] になり、その他の子音の前では [ʃ]音を表すために <sch> の綴りとなります。

英語 stark もドイツ語 stark(シュタルク)も同じ綴りで本来の意味は「強い」です。現代英語は「スターク」のように読むのに対し、ドイツ語は実際の発音では「シュターク」のように聞こえます。現代英語は「飾り気のない、過酷な」といった意味にで使うのが一般的です。

また、語頭でなくても「シュ化」が起きることがあります。主に l や r の後です。

英語の false はドイツ語では falsch(ファルシュ)となります。とにかくドイツ語は「シュ」が多いでしゅ。

❺有声化(軟音化 lenition)(中高~初期近代ドイツ語期)

英語ドイツ語
[s] > [z]series [s]Serie [z]
[w] > [v]whirl [w]Wirbel [v]

※[w] > [v]を「有声化」には通常含めないのですが、今回は語学的目的という便宜のためにまとめています。

Q
解説

ドイツ語は「ザズゼゾ」やら「ヴ」やらの音が多く、なんとなくイカツい感じの印象を持たれがちなのですが、それはこの変化に拠るところが大きいです。ドイツ語の母音の前の s は基本的に濁った [z] の音で読まれます。また、w も発音は[v] になりました。

英語の series はドイツ語で Serie(ゼーリエ)です。いずれもラテン語系統の借用語です。また、英語 whirl と関連する(?)ドイツ語は Wirbel(ヴィアベル)で、意味は「渦」です。いかにもドイツ語的響きを感じます。
私は漫画『葬送のフリーレン』を最初ドイツ語版で読んでいたのですが、このヴィアベルだけは人の名前だと気づくのにしばらく時間がかかりました。ドイツ語はすべての名詞を大文字で始めるので、綴りだけでは普通名詞と固有名詞の区別がないのです。

❻語末無声化(硬音化 fortition)(中高~初期近代ドイツ語期)

ドイツ語の語末で

英語ドイツ語
[b] > [p]staffStab [p]
[d] > [t]land [d]Land [t]
[g] > [k]dayTag [k]
Q
解説

ドイツ語では、語末の子音のカタマリに含まれる b, d, g は無声化し、それぞれ [p],[t],[k] になります。英語は land をそのまま「ラン」のように読みますが、ドイツ語は Land(ランです。ドイツ語のこの単語は「土地」という意味以外にも「国、田舎」といった英語の country みたいな意味もあります。

ここに挙げた例、staff-Stab❸閉鎖音化を経ているため語末英語の/f/ がドイツ語 b の綴りで現れ、さらにこの❻語末無声化[p] の発音になっています。一方、day-Tag は語頭のd→t❷第一次子音推移、英語語末の y は後述の❼口蓋化、そしてドイツ語語末の g [p] がこの❻語末無声化です。

Q
【やや専門的な補足】軟音化・硬音化

これらの音の変化に関して、有声化・無声化は、lenition/fortition という概念で説明されることがあります。

lenition は「弱化」や「軟音化」など訳されますが、ここにおける lenition とは、子音を調音する際、弱い呼気と共に発音することぐらいに思ってください。これが起きると、声帯が締まり有声化しやすくなります。例えば、「パ!」とはっきりと言うとしっかり [p] の音が聞こえますが、それを(母音をささやき声にせずに)どんどん弱くしていくと、次第に [p] と [b] の区別がつかないような音になっていきます。弱く「」というと、声帯が狭まり、その分子音は有声化しやすくなるのです。lenition「弱化・軟化」という意味と「有声化」は結びつきにくく感じるかもしれませんが、ゲルマン古語の無声摩擦音では、母音間でよくこの lenition が起きて有声化するのです。英語で life に対して、alive のようになるのもこの現象の現れ方の1つです。

逆に、fortition「強化・硬音化」では、有声子音がはっきりとした呼気と共に調音されて無声音になります。語末の有声子音が無声化すること事態は珍しいことでもなく、ドイツ語やロシア語では発音規則としてこれが定められています。

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英語側でおきたもの

口蓋化(古英語期以前)

英語ドイツ語
ch < kchin Kinn
y < gyesterdaygestern
Q
解説

古英語を他のゲルマン語と区別する大きな特徴です。詳しくは以下の記事を参照してください。

【英語が始まるとき】北海ゲルマン語の特徴、そして古英語へ
【英語が始まるとき】北海ゲルマン語の特徴、そして古英語へ

特に前後の i/e などの母音で軟口蓋音 *k *g が口蓋化し、それぞれ [tʃ], [j] となりました。この「キ→チ」「ギ→ィ」のような変化は英語の大きな特徴なのです。

yard 英語本来語/口蓋化あり

garden 古ノルド語由来/口蓋化なし
※もっともゲルマン祖語に近い

Garten ドイツ語/口蓋化なし
※語幹末 d→t は❷第二次子音推移

子音脱落(主に近代英語期)

書かない読まない英語ドイツ語
母音間の gsay
lie 横になる
lie 嘘をつく
sagen
liegen
gen

***

書くけど読まない英語ドイツ語
kn [k]>発音なしknee Knie [k]
gh [x/ç] >発音なしright
might
recht
Macht
Q
解説

英語史・ドイツ語史両方で、特に母音間の<g>には脱落傾向があったのですが、どちらかというと英語の方が母音間で<g>を落としたものが多いです。そして英語では g が落ちて二重母音が生まれました。「嘘をつく」の古英語は leogan でしたが、現代までに lie となり、「横たわる」の単語と同じ綴りになってしまいました。ドイツ語は lügen が「嘘をつく」で、gner(リュグナー)は「嘘つき」という意味です(=英語 lier)。

英語はなにより、「書くけど読まない」という文字がたくさんあることで知られています。それにはいくつかの種類があるのですが、ここに挙げた語頭の<kn>と<gh>は英語本来語で近代期まで発音していた文字です。つまり、knee は「クネー」、rightは「リヒト」のように昔は読んでいたのです。

英語史において、これらの発音が消えていった時期は印刷技術の広まりなどで正書法が確立していた時期でもありました。そのため読まなくはなったけど「正しい綴りはこれ!」という具合に残念な(あるいはオモシロい!?)書き方が決まってしまったわけです。

ドイツ語 Richter(リヒター)は「正しい判定をする人=裁判官」の意味です。英語 might「力」に対応するドイツ語は Macht(マハト)です。

Knecht を「クネヒト」のように読むドイツ語と比べると、knight を「ナイト」のように読む現代英語がいかにヘンテコな発音と綴り字の関係になってしまったかが実感できます。

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【まとめ】天にまします勇者ヒンメル

もう一度振り返ります。

英語とドイツ語両方に起きたもの】
❶ロータシズム
 freeze – frieren フリーレン
 iron – Eisen アイゼン

【ドイツ語のみに起きたもの
❷第二次子音推移
 apple – Apfel
 sharpsharf シャルフ
 ten – zehn
 water – Wasser
 milk – milch
 good – gut
❸閉鎖音化

 think – denken デンケン
 evil – übel ユーベル
❹シュ化

 stark – stark [ʃt] シュタルク
 swim – schwimmen
❺有声化

 series – Serie [z] ゼーリエ
 whirl – Wirbel [v] ヴィアベル
❻語末無声化

 landLand [t] ラント

英語のみに起きたもの】
❼口蓋化
 chest – Kasten
 day – Tag
❽子音脱落
 say – sagen
 knee – Knie
 might – Macht マハト

たくさんあるように思えますが、ドイツ語を勉強していくと、これらの対応というものは自然に気づいて思考に組み込まれていくものです。特に❷第二次子音推移・❸閉鎖音化・❼口蓋化などを知ってドイツ語を覚えていくと、いろいろな場面で楽しくなると思います。

最後に練習問題をつけてみます。□に入る子音字は何でしょう。

英語ドイツ語対応法則
openo□□en❷第二次子音推移
dew 露□au❷第二次子音推移
deathTo□❸閉鎖音化
❻語末無声化
nail 釘Na□el❽子音脱落(英語側)
leafLau□❸閉鎖音化
❻語末無声化
saltSal□❷第二次子音推移
cookko□□en❷第二次子音推移
yell□ellen❼口蓋化(英語側)
chirch□ir□□e❼口蓋化(英語側)
❷第二次子音推移
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解答
英語ドイツ語対応法則
openoffen❷第二次子音推移
dew 露Tau❷第二次子音推移
deathTod [t]❸閉鎖音化
❻語末無声化
nail 釘Nagel❽子音脱落(英語側)
leafLaub [p]❸閉鎖音化
❻語末無声化
saltSalz❷第二次子音推移
cookkochen❷第二次子音推移
yellgellen❼口蓋化
chirchKirche❼口蓋化
❷第二次子音推移

おまけ。この人たちにも触れておきましょう。

heaven – Himmel(ヒンメル)
ドイツ語では、英語の v/b が同じく唇を使う m に同化することがあります。ドイツ語語末の l は語源不詳ですが、同化の逆の異化によるものかもしれません。英語の heaven は古英語では「空」の意味でしたが現代では「天国」という意味になりました。現代ドイツ語の Himmel は「空」と「天国」両方の意味で使います。実際のドイツ語の発音は「ヒメル」に近く、むしろドイツ語話者が日本語風に「ヒンメル」と発音するのは難しいようです。

far – fern(フェルン)
意味はどちらも「遠い」です。ドイツ語語末の n は副詞的働きをする語形に由来するとされています。実際のドイツ語ではどちらかというと「フェァン」のように聞こえます。

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2018-2020年にかけて存在したサイト『やるせな語学』をリニューアルして復活させました。いつまで続くやら。最近は古英語に力を入れています。言語に関する偉大な研究財産を、実際の学習者へとつなぐ架け橋になりたいと思っています。
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