あれは比較級、これは最上級
前回の記事では、「あれも分詞、これも分詞」ということで、実は分詞に由来するという単語を紹介しました。
今回は、実は比較級、最上級に由来するという単語を紹介します。中級以上の語彙学習では、特にラテン語の比較級・最上級に由来するという英単語に多く出会うことになります。語彙の傾向を知っておくと何かと役立つことがあります。
英語本来語
英語の最上級の作り方は、-est という語尾を持ちます。-e- は音節を形成する発音の都合上のものと考えると、実質 -st の部分が最上級の意味を担う部分と言ってもいいでしょう。形容詞として語彙化していますが、もとは最上級に由来するという単語がいくつかありあります。
last は late の最上級に由来し、主に「(順番が)最後の」を表します。古英語 læt の最上級 lætest から引き継いだ本来の最上級です。現代では、late の最上級は、latest「(時間が)最後の」もあり、こちらの方が古英語の語形 lætest に似ていますが、latest の方は中英語期に新たに作られた語形です。
last < 古英語 lætest
latest < 中英語 late + -est
同様に、latter「(順番が)より後の」は、古英語の比較級 lætra に由来します。(語末の -a は比較級とは関係のない、形容詞の古い格語尾です。) 一方、later の方は近代英語期に新たにできた単語です。
latter < 古英語 lætra
later < 近代英語 late + -er
まあ、last や latter は見た目と意味からして late の最上級・比較級だとも意識しやすいです。
他の意外なところで言うと、first も最上級に由来します。
この原級は before などに含まれる fore「前の」であり、それが最上級になった古英語 fyrst に由来します。母音が o → y[現代英語 i] に変わっているのはウムラウトという現象で、old の最上級が eldest になるのと同じです。「前」の最上級で「一番前の」が first の原義ということです。one の序数として first を習いますが、これらは語形的な派生関係がなく、別語源の単語で基数-序数の関係を埋め合わせたというわけで、補充法と呼ばれます。two の序数 second もラテン語由来の別語源の単語であるため、補充法になります。
他では、next は最上級です。綴りからは見えにくいですが、[st]という最上級の「音」が入っていることに注目です。原級の古英語は neah「近い」で、next は「一番近い→次の」と意味を変化させています。この単語の比較級は near です。原級は現代英語では廃語となりましたが、neighbor などにわずかに残っています。現代では、near が比較級という意識が薄れてしまったので、そこからさらに nearer, nearest といった語形を生み出しています。
ラテン語由来
ラテン語の比較級、最上級に由来する単語もたくさんあります。ラテン語の比較級は -ior という語尾で、これは英語にそのまま引き継がれる場合が多いです。ラテン語の最上級は -imus という語尾を持ちますが、英語では格語尾がなくなるため、-m- の音(i.e.文字)だけが残っているることになります。
次の表のうち、太字の単語がラテン語の単語で、下の赤字がそこから派生した英単語です。基本的なラテン語の形容詞から多くの英単語が派生したのがわかると思います。

見ての通り、ラテン語の形容詞はやや高尚な響きがする難単語が多いです。magnificent などに入っている magn- が英語の “great” に相当するような単語の原級で、major が比較級、maximum が最上級ということは、言われてみれば納得できるのではないでしょうか。
前節で、first は「一番前」という意味で最上級に由来すると述べました。グリムの法則ではラテン語の <p> とゲルマン語の <f> が対応してくるので、上の表の prime と first は究極的には同語源ということになります。firts は英語内で最上級になり、prime はラテン語で最上級になり、それを英語に借用しています。生き別れた《きょうだい》が違う言語でそれぞれ成長し、現代英語で再会したようなものです。
語彙学習においても、特にラテン語系の比較級・最上級の単語にどのようなものがあるか知っておくと、難単語を覚えていく際の手がかりになることがあります。もう一度この表を眺めて意味を整理してみてください。
そんなこんなで、今回は、あれは比較級、これは最上級の話でした。
