多言語と英語史の沼にハマった英語教員が、英語の「進行形」について改めて考えてみた

imaizumisho

私たちは中学1年の時点で「進行形」という用語と共に “be + -ing” という形を習います。一般的に多用される形ではあるのですが、「進行形」というのは、改めて考えてみると、実はたくさんの発見をもたらしてくれる面白いやつなのです。

英語という言語内で、「進行形」というものを時制(テンス)の一つとして考えるか、それとも相(アスペクト)の表現法と考えるかなどの難しい話は置いておいて、進行形をどんな時に使うか考えてみましょう。

2022年のM1グランプリで、ウエストランドさんの漫才中に「警察に捕まりはじめている」という台詞がありました。この文が表すのがまさに「進行」です。英訳するなら、”They are getting arrested.” なんて表現がしっくりきます。今まさに、その動作が(繰り返し複数人に対して)行われていて、目下のところ変化の最中にあり、完了していないということを表すのに、進行形はぴったりです。

2023年のTHE SECONDという漫才の大会で三四郎さんが、この一節を踏まえた上で「警察に捕まり終えている」と言い放った場面がありました。これは「完了」です。”He has been arrested.”とでもなりましょうか。その動作はもう終わっていて、今現在は捕まっているというのが先ほどの「進行」とは対照的で、この落差が面白さを生んでいるといってもいいでしょう。

英語という言語内の、「進行」と「完了」の表し方を私たちは中学校で習いますが、そもそもこの形式はいかに成立して、どのような発展を遂げてきたのか、考えてみれば不思議なものです。

例えば、英語と関係の深いドイツ語やフランス語には「進行形」という固有の形態はありません。1000年前の古い英語でも進行形はまだ確立されていませんでした。

そこで今回は、他言語や英語史の視点から英語の「進行形」の現在の姿をあらためて捉え直してみようと思います。最終的には、現代英語では進行形がいかに使われていて、学習者や指導者はどのようなことを意識しておくとよいのか、実際の大学入試問題に見られた英文を中心に考察をしていきます。

In other languages

他言語には「進行形」がない?

英語学習の最初期に習う「進行形」という形態ですが、実はどのヨーロッパの言語にも見られるものではありません。むしろ、英語と同語族に属して関係性も深いドイツ語にも、歴史的に重要な影響を与えたフランス語にも、「進行形」という固有の形態はありません。それどころか、私が知る限り、イタリア語にも、ロシア語にも、ラテン語にも、はては古典ギリシャ語にも進行形などという形態は見られません。

進行形がない言語では「~する」と「~している」の違いはどうやって表すのかと疑問に思う方もいるでしょう。

結論から言うと、進行の「~している」の意味は、普通の現在形のままで表現します。ドイツ語を例に見てみましょう。

ドイツ語の現在時制

Ich studiere Englisch.
①私は英語を勉強します。=I study English.
②私は英語を勉強しています。=I am studying English.

この文は、解釈として①②の両方の可能性があります。「え~同じだったらどうやって区別するの?」と思うかもしれません。しかし、実際に文中でこういった表現に出会うと、「している」か「する」かの違いがわからないということはほとんどありません。文脈や文中の副詞句(gerade「ちょうど今」jeden Tag「毎日」など)によって、どちらの解釈をすればいいかが示されます。過去形にしても同じことです。「した」も「していた」も同じように通常の過去形で表すのが一般的です。

ラテン語をはじめ、そこから派生したフランス語やイタリア語では、過去のことを表す時制の中に「未完了過去」(フランス語・イタリア語文法では「半過去」と呼ぶことが一般的)という時制があります。過去の継続状態・反復動作・終わっていない出来事を表す際に使われました。英語の過去進行形と一部重なり合う部分もあります。しかし英語の過去進行形の方は、進行中の一時的状態にしか使わないので、適用範囲がより狭いです。また、イタリア語やフランス語では未完了過去時制という動詞の一形態であるのに対し、英語は “be動詞の過去形 + -ing” という単語の組み合わせで特定の用法を作っている点でも異なります。

フランス語の未完了過去(半過去)

【半過去=過去進行形】
Je regardais la télévision vers sept heures.
私は7時頃テレビを見ていた。
 ↓
○I was watching TV around seven.(過去進行形)
×I watched TV around seven.(過去形)


regardais は regarder「見る」の未完了過去で「見ていた」

【半過去≠過去進行形】
J’aimais le film.
私はその映画が好きだった。
 ↓
×I was liking the film.(過去進行形)
○I liked the film.(過去形)


aimais は aimer「~を好む」の未完了過去で「好きだった」

英語では通常 *I was liking the fillm. とは言わないので、フランス語の未完了過去が英語の過去か進行形や過去形に重なり合うわけではなく、より限られた状況に使用されるのがわかります。フランス人が英語を勉強するときには、こういった違いに苦労する人も多いようです。

ロシア語でも、不完了体と分類される動詞を過去時制で使うと「終わっていない動作」を表現できます。しかしここでもやはり英語の過去進行形の方がよりピンポイントで「一時的」動作を表現できます。

初めてヨーロッパの英語以外の言語を勉強しているときは、教科書や文法書に「進行形」という単語がどこにも見当たらず、「している」はどうやって表すのん? と思てしまうことが私もありました。ただ、なんてことはありません。「している」と言いたくても、普通に現在形で大丈夫です。それでわかります。慣れてしまうとこれは非常に便利です。むしろ、いちいち形を変えないといけない英語の方が億劫に感じられることもしばしばです。

そう考えると、英語の「進行形」はやや特別な存在です。進行中の「している」を「する」と区別して明確に表現する形式を持った英語は、独自の形式を自ら発展させてきたことになります。

Origin of the progressive form

英語の進行形の起源

英語の進行形が現在の用法で確立されたのは、実は最近のことです。最近といっても17~18世紀頃です。まあ、言語史の中では比較的新しい出来事です。同じく「be動詞と分詞」で表現する受動態や「have と過去分詞」などで表現する完了形は、もう少し早い段階で今と同じような姿で見られたことを考えると、進行形はずいぶんな新参者です。

進行形の萌芽とみられる形態は1000年以上前の古英語の時代から観察されます。しかし、それがいかにして現代英語の進行形という姿に文法化していったかは見方が分かれるところです。

古英語以降、次のような構文が存在しました。

  • be動詞 + 現在分詞(当時は -ende という形)
  • be動詞 + on + 動名詞(gerund)

どちらも現在の状態を表す言い方でしたが、be動詞と後ろの要素の結びつきがまだ弱く、一つの時制形態として確立したとは言えない時代が続きました。この2つのどちらか、あるいは両方が影響を与え合いながら徐々に「be動詞+-ing」の形ができあがっていきます。

シェイクスピアの時代(16~17世紀)は進行形はまだ発展途上にあって、現在なら進行形を使うようなところも現在形で話されていたりします。

Polonius: What do you read, my lord?
Hamlet  : Words, words, words.
ポローニウス:何をお読みですか、閣下。
ハムレット :言葉、言葉、言葉。

Gertrude: To whom do you speak this?
Hamlet   : Do you see nothing there?
ガートルード:誰に対してこの話をしているのですか。
ハムレット :見えないのですか。  
“Hamlet” William Shakespeare

現代英語ならば、太字の台詞は “What are you reading“、”What are you speaking” と進行形になりそうなところです。この時代には、所々で見られるものの、進行形はまだ現代ほどは使われていなかったことが見て取れます。そのままいっていたら、現代英語もドイツ語と同じように進行形という形態を持たなかったかもしれません。

「進行形」の形式が時代によってどれだけ使われるようになっていったか、次のデータをみてみてください。

作家・作品別に見る進行形の頻度(10万語あたり)
チョーサー(14世紀)16回
シェイクスピア(16世紀)40回
『高慢と偏見』(1813年の小説)250回
Room at the Top(1957年の小説)750回
(参考)家入・堀田 p.156

こうして見ても、進行形が現代英語に向かって爆発的に広まっているのがよくわかります。元々、進行形は散文、喜劇、インフォーマルな文脈によく見られたという指摘もあります。そして言語の使用が全般的に口語化していく中で広がっていったという見方もされています。

いずれにせよ、現代英語の表現には、進行形が不可欠です。私たちは中学1年生の時点で進行形の作り方を学び、過去進行形も学び、進行形の疑問文や否定文の作り方を学びます。さらに高校では現在完了進行形、受動態の進行形、進行形にできない動詞など、その学びを深めていきます。

そして、新しい文法事項である進行形は、現代英語においても用法の拡大が見られる事項で、若葉のようにもりもりとその活躍の幅を広げていっているのです。以下では、進行形が現代英語でどのように用いられているか、大学入試に出てきた英文を題材に、現代英語の姿を考えてみたいと思います。

Our language today

進行形のいま

現代英語で進行形が拡大している要因としては、文法として確立された結果、それまで使用されていなかった範囲でも進行形が使われていることが考えられます。進行形が特徴的に使われる場面を以下に分類していこうと思います。

未来のことを表す進行形

進行形で未来のことを表すことができるのは、割とどの学習者も知っていることだと思いますが、改めて考えてみたいと思います。

  1. Are you starting at Robinson University soon? (2022R第4問)
  2. Then I’m leaving right now, so I won’t wet. (2022L 第3問)
  3. You are departing on public transport from the airport at 2.00 pm on 15 March 2021. (2021R第3問)
  4. Well, the rain won’t last long anyway.  I‘m waiting here. (2022L 第3問)
  5. I’m attaching the graph I found on the aquarium’s homepage. (2021R第4問)
  6. Hinode University is arranging transportation for us to the campus. (2022追R第4問)

大学入学共通テスト

進行形は眼前のことを今起きていることとして生き生きと語ります。完了せず、今は変化の途上にあって先へと続いていることが、未来のことを表すようになるのはなんら不自然な流れではありません。共通テストのこれらの例に共通して言えるのは、すべてが口語的であることです。「生き生き感」が未来へと向いていくと、幅広い事柄を進行形で表すことができます。

元々移動を表す動詞と相性が良いこの進行形による未来表現ですが、話し手が聞き手に「生き生きとした」動作として伝わるように、様々な場面で頻繁に使われているのが見て取れます。

状態動詞と進行形

私が高校生だった2010年以前は「進行形にできない動詞」ということで、状態動詞を教わった記憶があります。しかし、状態動詞であろうと文脈次第で、あるいは話し手の特定の意識を表すために進行形を使うことはよくあることです。

次の例を見てみてください。

  1. At the time of my visit, around 70 dogs were living there.
  2. A lot of questions came to my mind, but then I realised that he was just being kind.
  3. I was thinking of volunteering at an elementary school or a kindergarten.
  4. Not yet.  I was hoping for a native French-speaking family.

大学入学共通テスト

ここにあるのはほんの一例ですが、状態を表すとされる動詞も非常に柔軟に、進行形と共に使われることを、英語に慣れ親しんだ人ならなんとなくわかっているはずです。

①の例では過去形の lived でもそれほど文意は変わりませんが、進行形にしていることで一時的に70匹の犬がいたことに焦点が置かれています。そのときは70匹であって、その後またその数は変わったというときは進行形の方がしっくりきますね。

②も一時性を強調しています。(普段の性格は別として)ちょっと親切にしてくれてただけだと思ったわけです。

hope think という動詞は、上記の live と並んで非常に進行形になりやすい動詞です。話し手は、目の前の気持ちを生き生きと進行形に乗せて語ります。現代英語で進行形を読み解く鍵は、この生き生き感を捉えることと言ってもいいかもしれません。

マクドナルドのキャッチフレーズ “i’m lovin’ it” が読み手に伝えるのも、まさにこの「眼前で起きているかのような生き生き感」です。

また別の例をどうぞ。入試の会話問題からの引用です。研究のために海外に行く話し手は、見送りに来てくれた恋人に次のように言います。

This is something I’ve been wanting to do since I was a little girl. When I come back, you’re going to have to call me Dr. Yagami!

2023年慶応大・理工学部・第3問

「小さい頃からずっとやりたかったことなの」と言うなら、別に I’ve wanted だけでもいいのですが、 I’ve been wanting と進行形にすることで、「ずっとずっとやりたかった」という話し手の気持ちが前面に出て伝わるようになっています。

進行形の解説用法

進行形は、「目の前で行為が進行中である」ということを表すため、次のように、「~をするということは、・・・している(のと同じことな)のです」といった文を作ります。山崎(2022)で「進行形の解説用法」と呼ばれています。これは、いわば行為を説明・定義する時に使われる進行形の用法です。

Plus, by buying from Second Hand you’ll be supporting a local business.
その上、中古製品を買うことで、あなたは地元事業を支えていることになります。

大学入学共通テスト

これも根本にあるのは目の前で起きているような「生き生き感」です。話し手である広告主は、「考えてみてください。中古製品をうちで買うってことは、こんな素晴らしいことをやってるってことですよ」と読者に訴えかけるわけです。読者は新たなメリットをよりリアルなものとして実感できるようになります。

Tomorrow I might be loving it more.

これからの進行形はどうなる

以上、英語の進行形について、私が英語を教える仕事をしている中で考えたことをまとめてみました。

進行形は、現代英文法の中でも元気いっぱいの初夏の若葉のように、もりもりとその用法を広げている文法事項です。英文を読んでいたり、英語が話されているのを聞いたりしていると、進行形の用法にはっとするなんてことはよくあります。ここに紹介しきれなかったものの中にも、面白い例はたくさんあります。新しい表現に心を開いて、いろんな言語の使用場面を観察してみると、思わぬ発見があります。進行形はその最たるものだと思います。

Google Ngram という書き言葉のデータベースで “I hope” と “I’m hoping” の登場頻度を比べてみると、書籍に現れた表現としては現在形の方が多いですが、進行形の方も2000年以降に数を増やしているのがわかります。(下図の青線が現在形、赤線が進行形の登場割合を示していいます。)書き言葉でのこの差は、口語ではもっと縮まることが予想されます。

今回は扱いませんでしたが、世界の他の地域の英語にはどのような進行形の用法が見られるか考えてみるのも面白いかもしれません。例えば、インド英語では I’m knowing(私は知っている)や This bag is belonging to me(このバッグは私のです)というように、通常の英語では進行形にしない動詞も、日常的に進行形で使うと言われています。

英語という言語が進行形を爆発的に発展させてきたのはどのようなダイナミズムがはたらいていているのかを考えると、これからの言語の姿もまた見えてきそうです。話し手が出来事を生き生きと語るとき、自己の精神・肉体・世の中の森羅万象との関わり方を言語が仲介します。そしてその緊張の糸の張り具合をうまく調整するのが進行形であると思ったりもします。

最後の例で紹介した、「will be -ing」も観察していてとても面白い用法です。未来進行形という名前で習いますが、未来の一時点で進行している動作以外にも、非常に幅広い場面で使われる用法です。今回は深入りしませんでしたが、また考察する機会があれば取り上げて考えてみたい文法事項です。

教え手としての経験上、実は進行形というところは、学習者が極端に躓きやすかったり、多くの間違いをしてしまうという文法事項ではない気がしています。その一つの理由は、「be動詞+ing形」という、シンプルで覚えやすい形態であるからだと思います。そのため用法も広がりやすく、また既存の「受け身文」や「完了文」と組み合わせて、be being done や have been doing といった用法を柔軟に生産していけたのかもしれません。

言語について考えるとわからないことだらけですが、英語を過去の英語と比べてみたり、他の言語と比べてみると、思わぬ発見があります。進行形という独自の武器を発展させた英語がこれからどのような発展を遂げていくのか、その観察を今後も楽しく続けていきたいと思います。

参考文献
  • 家入葉子(2007)『ベーシック英語史』ひつじ書房
  • 片見彰夫・川端朋宏・山本史歩子編(2018)『英語教師のための英語史』開拓社
    [シェイクスピアの用例はこの本から]
  • 家入葉子・堀田隆一(2023)『最新英語学・言語学シリーズ21 文献学と英語史研究』(開拓社)
    [進行形の変遷については本書を主に参考にした。英語史のこれまでの研究成果がまとめられている最新の本で、入門書から一歩深めた英語史の知識がほしいときに役立つ。]
  • 山崎竜成(2022)『入試問題が教えてくれた言語事実47 知られざる英語の「素顔」』(プレイス)
    [進行形の解説用法について、入試問題の実例を挙げながら詳しく説明している。現代英語で頻繁に見られるがあまり文法書で扱われていない点を取り上げてまとめてあり、どのページを読んでも発見がある。]
  • 久野暲・高見健一(2013) 『謎解きの英文法 時の表現』(2005)『謎解きの英文法 文の意味』くろしお出版
    [進行形にできないとされる動詞がどのような場面で進行形になるか解説している。]
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巷の英語教員・語学人間
2019-2020年にかけて存在したサイト『やるせな語学』をリニューアルして復活させました。いつまで続くやら。最近は古英語に力を入れています。言語に関する偉大な研究財産を、実際の学習者へとつなぐ架け橋になりたいと思っています。
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